日本のアニメ作品と関わりが深い音楽といえば「アニソン」と呼ばれて親しまれている“主題歌”を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、アニメの音楽は主題歌だけではない。劇中曲にクラシックの楽曲を使用したことで、作中屈指の名シーンとなったケースも多数存在する。それらは、物語のテーマやシーンに合致した曲が選ばれているという。※本稿は渋谷ゆう子著『生活はクラシック音楽でできている』(笠間書院)の一部を抜粋・編集したものです。
エヴァのクライマックス
「第九」に隠された意味
ベートーヴェンを効果的に使ったアニメといえば、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995~96)があげられます。
『新世紀エヴァンゲリオン』は、人型の兵器エヴァンゲリオンに搭乗する少年少女パイロットたちと、敵である使徒との戦い、そしてそれがなんであるかを探る道程が描かれた作品です。
TVシリーズのクライマックス第弐拾四話「最後のシ者」に、ベートーヴェン作曲「第九(交響曲第9番ニ短調作品125)」第4楽章が非常に印象的に、他に類を見ない例で使われています。
ベートーヴェンの「第九」は、難聴が進んでもうほとんど聞こえなくなっていたベートーヴェンが最後に到達した、大編成のオーケストラがソプラノ、アルト、テノール、バスの4人のソロ歌手と大合唱を伴って演奏する大規模な交響曲であり最高傑作です。
1815年から本格的に作曲を始め、完成したのは1824年、亡くなる3年前のことでした。
2024年は「第九」がウィーンで初演されてから200年を記念する年にあたり、世界中で「第九」の演奏が予定されています。日本では毎年年末になるとあちこちで聴かれる最も知名度の高い交響曲です。
第4楽章には独唱と合唱があり、その歌詞はシラーの詩『歓喜に寄す』がベースになっています。歌の導入部分は、ベートーヴェン自らが一節を追加し、自身の思いを提示しています。
「私たちは、もっと心地よく、もっと歓喜に溢れる歌を歌おうではないか」
難聴だけでなく他の病にも蝕まれていたベートーヴェンが最後に行き着いたのは、生きることの喜びとそれを分かち合うことのできる人々との温かい関係、神への想いを込めて自身の作品に投影させることでした。
「抱き合おう、数百万の人々よ!このくちづけを世界中に!」