コロナ患者を受け入れると、一般医療を制限することになり、病院経営に直撃するため、多くの病院が引き受けたがらないのだ(高久玲音『やさしい経済学:コロナが問う医療提供の課題(2)患者受け入れが病院収益に影響』)。

 また、コロナ患者に対応するための機材、人材が十分ではない。それらの問題を調整して、大病院等に重症治療等を集約するなどの対策を取ろうとしても、医学界、医療行政の「縦割り」が障害となる(第262回)。

 このような複雑な問題を抱えているからこそ、分科会は正面からそれを議論すべきだったが、目を背けてしまった。分科会は、ひたすら国民に行動制限を求め続けることに終始したのだ。

他国がワクチンの議論と調整を進めていた頃、日本の分科会は…

 日本は、ワクチン接種の開始がG7で最も遅く、ワクチン接種率は「世界最低レベル」にとどまっている(第271回)。

ワクチン接種の遅れる原因として、国内でのワクチン開発の遅れが指摘されることが多いが、それは本質的に重要な問題ではない。ワクチン接種が日本より進んでいる国の多くが、自国製ワクチンを開発しているわけではないからだ。

 問題は、素早く十分な量のワクチンを製薬会社から調達するための交渉を、政府が迅速に行っていなかったことが、より深刻な問題だ。

 新型コロナのワクチン開発は、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルスの研究の蓄積をベースとして、昨年1月に新型コロナの世界的な流行が起こると、各国の研究機関や製薬会社によって一挙に加速した。

 英国政府は、この時点でワクチンについて議論を始めていた。

 昨年4月、首相官邸でサー・パトリック・ヴァランス科学顧問とイングランドの医務副主任であるジョナサン・ヴァン=タム教授は、ワクチン開発の現状を説明し、その供給実施の具体策を明確に提示して、ボリス・ジョンソン首相ら政府首脳を説得した。首相は、ワクチン開発のため「できることはなんでもする」と決断し、英国財務省は135億ポンド(約2兆400億円)の巨額資金をワクチン開発につぎ込んだ。これには、「納税者の税金をあれだけ使って、成功しなかったら、どうなるのか」と反対論が噴出した。だが、首相は「1年後には必ず、やっておけば良かったと後悔することになる」と押し切った(ローラ・クンスバーグ『【解説】イギリス政府はパンデミックとどう闘ったか 1年間の舞台裏』BBC NEWS)。

 同じ頃、日本の専門家会議は「ワクチン開発には数年かかる」と安倍晋三首相(当時)に進言していた。その結果、ワクチン接種による新型コロナのパンデミック終結は想定外となってしまった。

 6月頃には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相など、世界の首脳が製薬会社とワクチン確保の直接交渉を開始していた。

 だが、日本にはワクチン開発の最先端の情報は入らなかった。8月21日の分科会後の記者会見では、尾身会長がワクチンについて「分からないことばかりと言ってもいいくらいだ」と発言した(Sankei Biz 『新型コロナワクチン早期実用化と安全性確保 政府両立に腐心』)。