国際オリンピック委員会(IOC)総会で、トーマス・バッハ会長が、東京五輪の参加者に中国製の新型コロナウイルスワクチンを提供すると唐突に表明した。まさに、日本側にとって「寝耳に水」で、中国の「ワクチン外交」のしたたかさに圧倒され、政府は言葉をなくした。しかし、日本の動きが遅すぎた。そして、なぜ日本が世界と比較してもワクチン接種が遅れているのか。その根底には「官僚支配」と「世界のスピードについていけない」という問題があるのではないか。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
東京五輪開くならワクチン戦略こそ重要だった
日本が、本気で東京五輪を開催したいならば、実は「ワクチンの確保」こそ、万難を排して取り組むべきことだったのかもしれない。国民の大多数がワクチンを接種し、諸外国の五輪参加者にもワクチンを提供することが、世界が不安にならない五輪開催の道だった。それを、中国の戦略的な行動に教えられた気がする。
しかし、中国が戦略的というよりも、日本の考えが甘かったというべきだろう。
例えば、英国は、2020年12月に、世界で最初に臨床試験を経て認可されたワクチンの接種を開始している。さらに、ボリス・ジョンソン首相は「6月21日にほとんどの制限を解除する」と宣言した。8月か9月までには国内の全ての成人が2度のワクチン接種を終えると自信を示している。