宇多田ヒカルさんの告白に賛否
若者の自己紹介で言われた「私はシスでヘテロ」とは

 宇多田ヒカルさんはインスタグラムで、ぬいぐるみのクマをゲイだと紹介したあとで、自分のことをノンバイナリーと語った。「ノンバイナリー」とは、性自認が男性でも女性でもなく、どちらかの枠組みに自分を当てはめないことを意味する。

 なぜ今のタイミングで告白したのかというと、6月がLGBTの権利向上を促すプライド月間だったためだ。

 ネット上では、その「カミングアウト」に好意的な声もある一方で、「性についていろんな言葉がありすぎてよくわからない」と混乱を語る声や、「いちいちカミングアウトしなくていい」「するな」という否定的な声、その否定的な声に「明らかにするのもしないのも本人の自由だ」と反論する声もある。反応が混沌としていることが、現在が過渡期であることの表れだろう。

 こういった反応の様子からも、性自認や性指向に関する言葉や知識についての理解度は、個人差がだいぶあるように感じる。日本ではいまだに同性婚が認められず、LGBT理解増進法案でさえ通らなかったくらいなので、偏見や差別がなくなったわけでは全くない。

 ただ、若い年代の方が、いわゆる「多様性」についての浸透度も高く、性自認も性指向も多様で当たり前という考え方を自然に受け取っているように見える。性に関するカタカナ語も、上の年代は苦手意識が強いだろうが、10代〜20代はある程度自然に使っている。

 例えば、性がテーマのイベントやトークの場に参加すると、若い参加者が「私はシス男性でヘテロです」といった自己紹介をすることがある。

 シスジェンダーとはトランスジェンダーではないことを意味する。つまり生まれたときにそうであると見なされた性別と自分の性自認が一致している人。ヘテロはヘテロセクシャルの略であり、異性愛者を意味する。逆がホモセクシャルである。
 
「シス男性でヘテロ」とはつまり、性自認も性指向もマジョリティーである男性のことだ。これまでの社会で、性的多数派の人たちは、わざわざ自分の性自認や性指向を説明する必要がなかった。説明しなくても、それが「普通」と思ってもらえるからだ。

 マジョリティーである人がわざわざそう自己紹介をすることは、「それだけが普通ではないと理解している」ということの表明にもなる。

 このような自己紹介を「意識が高い」と揶揄(やゆ)したり、「面倒くさい」と思う人もいるかもしれない。ただ、もしかしたら10年後は、このような自己紹介が「普通」になる可能性もある。