ゾウの群れの1年以上に及ぶ放浪は、ゾウ自身に新たな生息地を探させるという「ゾウの自由意思の尊重」にもみえる。7月10日は、負傷して15頭の群れから落伍した生後2カ月の赤ちゃんゾウを、100人がかりで助け出し元の生息地に戻したというニュースも流れた。中国が全身全霊でゾウを保護し、また尊重しようとする根拠は何だろうか。

 「効率優先」を重視する中国がこれほど「過程を重視」することは珍しいといえるが、これは近年激化する国際メディアの対中バッシングをかわすためとも考えられる。この“ゾウの赤ちゃん救出劇”もシーサンパンナ自治州の中国共産党宣伝部が発表しているが、中国は一連のゾウ対策と「動物にやさしい」というイメージ形成とを結び付けているところはないだろうか。

 その反対に、ゾウに麻酔を打って強制的に生息地に戻したならば、国際的な環境保護団体が異を唱えるかもしれない。2022年の冬期オリンピックは北京で開催されるとなれば、中国は今、国際的な印象をより重視しなければならない立場にある。

 愛らしさで世界の人々を癒やしてきたパンダは「外交ツール」として政治利用されてきた歴史がある。「15頭のゾウ」への目を見張るような気遣いも、どこかこのパターンに似て、うっすら政治的なにおいが感じられる。もっともゾウたちからすれば、自由を謳歌できてうれしい話だろうが。