この記事でも「パナソニックとシャープは事業構造改革の成果が出始め、浮上しつつある一方で、ソニーだけ今期(2015年3月期)も最終赤字予想となるなど、取り残されている」というリード文がつけられている。

ソニー再生の原動力となった
平井氏の興味深いマネジメント

 今となれば誰も平井ソニーを批判する人はいないが、平井氏が最近出版した著書『ソニー再生』には、この頃の平井氏のマネジメントについて興味深い記述があり、平井氏のマネジメントの基礎はダイバーシティにあるという。

 ダイバーシティはイノベーションの源泉であるが、実は生産性とはトレードオフの関係にある。これはハーバードビジネススクールのアバナシー教授が1978年に出版した『生産性のジレンマ』という研究でも論じられているのだが、生産性を高めようとすると、効率の悪い無駄なことを排除しようとするので新たなアイデアも排除され、イノベーションが起きない組織になるというものだ。

 平井ソニーの脇を固めた、今日のソニーの首脳陣である吉田氏、十時氏も、So-netやソニー銀行というソニーにとっては本流ではない事業からの登用であるが、平井ソニーの特徴はこうした多様性のある人材登用にあった。効率性が高く賢いだけでは、ソニーのような企業の経営はできない。

 同書で平井氏はEQ(心の知能指数)という言い方をしているが、より情緒的で感性的なものを大切にし、効率経営だけではないものを大切にすることが、V字回復につながらなくとも長期的な企業の組織能力を強化させるものになるということだ。

 この本の中で、平井氏は大学時代にマツダのRX-7が愛車であり、「燃費は悪かったけど、これがもう最高にカッコ良くて」と述べている。製品とは機能性能が優れていると価値が高いと思われがちだが、人は技術を買っているのではなく、製品を通じた総合的な体験を購入しているので、そこには非合理的であっても、情緒とか感性を揺さぶる何かがないと消費者の心の琴線には触れない。過去のデータやスペックシートを並べて機能・性能が向上したというだけでは、本当の意味での商品企画にはならない。