こうしたインテグラル、すり合わせのやり方は、効率性という点ではモジュラー型には敵わないが、柔軟性、多様性、臨機応変な対応はしやすく、多様な製品を生み出す力や、非常時の臨機応変な対応につながっている。

日本企業に合った経営再建策は
むやみにV字回復を目指さないこと

 本連載で、著者はよくV字回復の危うさを指摘しているが、こうした日本の底力は、V字回復のような瞬発力や効率性はないものの、長期的な競争優位を確立する上で貴重な日本企業固有の能力であり、それを伸ばすこと、つまりむやみにV字回復を目指さないことが、日本企業の能力に見合った経営の立て直し策であると考えるからだ。

 ソニーは昨年、過去最高益を出し、今回の決算でも好業績を出しているが、これもV字回復というよりは、前社長の平井一夫氏、現社長の吉田憲一郎氏の平井・吉田体制が時間をかけて築いてきた成果といえる。

 以下のグラフは、ソニーとパナソニックのリーマンショック後の研究開発費の変化の推移を示したものであるが、当時V字回復ともてはやされたパナソニックは研究開発費を抑えて短期的な利益率を改善、ソニーは赤字を継続したものの研究開発費はむしろ増加させている。結果はご存じの通り、パナソニックは短期的な業績回復はできたものの、長期的にはより苦しい経営環境に見舞われている。

 平井氏といえば、社長就任当時は「エレキを知らないレコード屋」「アメリカかぶれで日本企業の経営はできるのか」といった批判をされていた。週刊ダイヤモンドでも「ソニー消滅!!」といった特集が組まれ、当時から平井氏のマネジメントを評価していた著者は、ダイヤモンドオンラインで「週刊ダイヤモンドの『ソニー消滅!!』説に反論!」という記事を掲載したものだ。本誌の特集に真っ向から反論する論考を掲載するダイヤモンド社も、懐が広い。