「なんちゃって急性期病床」とは?
日本の脆弱な医療体制の根本原因

 なじみのない言葉に戸惑う方も多いと思うので、ひとつずつ順を追って説明しよう。まず、「急性期病床」とは、重症患者用の病床のことで、今回コロナ重症患者などはここに収容される。実はこの急性期病床が人口あたりの数において、日本は他の先進国と比べてケタ違いに多いのだ。

「だったら、コロロ患者のたらい回しや、入院を断られて自宅療養で死ぬなんてことが起きないじゃないか」と思うだろうが、そこに日本の医療特有の「病巣」がある。

 急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ。病床というのは医療従事者がいなくては機能しないので、他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。

 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ。

「急性期病床」を名乗ってはいるが、現実問題として医師も看護師も不足しているので、重症者を受け入れることができない。救急患者受け入れの要請があっても断らないといけないし、治療に多くの人的リソースを割かねばならぬコロナ患者などは論外だ。

 このような「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ。初耳だという人もいるだろうが、医療行政の世界では当たり前のように使われている。例えば今年4月15日の財政制度分科会の財務省資料にはこんな説明がある。

 <急性期を選択して報告しながら実際には医療資源投入量が少ない低密度医療しか行わない病床(いわゆる「なんちゃって急性期」の病床)のあり方を見直す必要>

 ここで言う「低密度医療」とは要するに、検査入院などのムダな入院だ。海外では1日で退院させるようなものでも、日本では1週間入院させるなどの問題がかねてから指摘されている。日本の現行の医療制度では、空きベッドをなるべく埋めて、診療報酬を多くもらうことが病院の経営だ。そのため、元気な人や軽症者にさまざまな理由をこじつけて、なるべく長くベッドに寝てもらう、というおかしなバイアスがかかってしまうのだ。

 ちなみに、この「見直し」はコロナで医療がひっ迫しているからということで唱えられているわけではない。遥か以前からずっと、「なんちゃって急性期病床」を減らすべきだということが言われていたのだ。