医療情報システムと
その関連技術は日進月歩

 病室での患者のWi-Fi利用は、コロナ禍、聴覚障害者のための手話通訳や外国人のための医療通訳における「オンライン通訳」などでも欠かせない。

 それでは、病院が病室へ患者用Wi-Fiを導入することは難しいのか。結論から言えば、技術的な電波管理とセキュリティー管理の必要はあるが、すでにその解決法は関連企業から提案されている。複数のメーカーやソリューションサービスを提供する企業へ取材したところ、3点のポイントに整理できたため紹介する。

(1)既存のネットワークへの影響が起こらないよう工夫できる

 これまで、病院では「院内の医療情報システム(自動受け付けや自動会計、電子カルテ、検査機器のデータ伝送等の診療業務(HIS、Hospital Information System)」、および「病院職員・医療関係者が院外へアクセスするインターネット接続用」のネットワークを2つに分けて構築することが多かった。

 このため、病室に患者用Wi-Fiを導入するためには、主に2種類の方法、(A)新たに病室用無線LANを構築する(物理的分離ネットワーク)、(B)既存のネットワークを流用しながら、既存の機器の設定を変更したり、最低限の機器を追加したりする(論理的分離ネットワーク)が考えられる。このどちらを採用するかは、病院建物の構造上の制限、Wi-Fi導入の予算、既存ネットワーク機器による。

(B)については、近年、「IEEE 802.11ax(Wi-Fi6等)」というIEEE(アイトリプルイー、米国の電気電子学会。標準規格の制定などをしている)で規格化されているアクセスポイントを導入することで、前述の2種類のネットワークを統合でき、通信速度も安定できるようになった。例えば、病室での患者用Wi-Fi導入時、既存の医療情報システムに乗り入れたため、インターネットの速度が遅くなってしまったり、病室すべてをカバーできなかったりしていたが、このアクセスポイントで課題を解消できるという。

 さらに、診療部門の電子カルテと病室でのWi-Fiの周波数を分けることも可能になった。それぞれ快適に安定的にインターネットを使うことができれば、「病室に患者用Wi-Fiを設定すると、ナースコールが増えるのではないか」という不安も減る。

「#病室WiFi協議会」メンバーの一人で情報通信技術に詳しい、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の川森雅仁特任教授は「全国の病院の7、8割は(B)の方法で病室での患者用Wi-Fiの導入が可能ではないか」と助言する。