ビジネスを軸とする地域連携より、安全保障を優先する同盟関係が前面に出た。時代は、統合から分断へと動いている。

 米国はアフガニスタンから軍を引き、カネと力を中国との競争へと注ぐ。相互依存を前提としたサプライチェーン(物流網)が見直され、デカップリングと呼ばれる「切り離し」があちこちで起きている。

 さらに、日本、インド、オーストラリアを束ねQUAD(日米豪印協力)を立ち上げた。海洋安全保障を掲げ、インド洋で合同海洋演習を行い自衛艦が参加した。

 24日、ワシントンで行われたQUAD首脳会議にはバイデン大統領が呼び集めた対面形式の会合に4首脳がそろい、中国とは名指しはしなかったが、対中国に対する連携強化を印象付けた。

 もう一つの対中安全保障の枠組みは、「AUKUS」だ。

 米英豪による軍事面の協力関係で、米英はオーストラリアに原子力潜水艦の技術を供与し、核を配備して中国牽制に当たらせるという挑発的な構想が明らかにされた。

 アングロサクソンの軍事同盟である。

薄っぺらい「中国脅威論」
米中双方をいさめる役割を

 アジアは平和を前提とする経済連携から、一触即発の緊張をはらむ対中安全保障優先へと変わろうとしている。

 そんな中でTPPも変質し、中国をブロックすることが日本に役目となろうとしている。アジア太平洋の経済的繁栄というTPPの大義はどこへ行ったのか。

「こういう時こそ、中国と腰を据えて向かい合い、TPP基準をクリアできる国内改革の後押しをする交渉が必要ではないか」。アジア・中国を見てきた経産省OBはいう。日本の国益は「平和な中で安定したビジネスを続けること」ではないのか。

 対立を乗り越え、決裂を回避するのは、交渉相手と「人間としての信頼」が欠かせない。経済交渉でも外交でもそれは同じだ。信頼のパイプをどれだけ持っているか、その厚みが国家の安全保障でもある。

 薄っぺらな中国脅威論は誰もが語るが、このままいけば日本は戦争に巻き込まれるかもしれない。世界は「経済連携」から「軍事ブロック」へと動いている。その危うさを感じてか、バイデン大統領や習近平主席も、電話首脳会談やファーウェイ問題の手打ちなど緊張緩和に動いている。

 アジアでは来年1月にRCEPが動きだす。これからを遠望すれば、中国も米国も参加するアジア太平洋経済圏が望ましい。中国の加盟申請はチャンスだ。相互依存は平和の原点だ。バイデン大統領を説得して引き寄せる。忖度して「門前払い」が役割と心得るようではスケールが小さい。

 日本は米中の間に入って、双方をいさめ説得する。それくらいの構想力のある政治家が現れてほしい。

 自民党総裁選の後には総選挙がやってくる。

(ジャーナリスト 山田厚史)