たとえば、小学校の教科書では、親しみを込めて習氏を「習近平おじいさん」と呼び、最初から「愛国心」を植えつける記述が続いている。高校の教科書では、台湾問題について「台湾独立勢力の分裂工作を打ち壊す」「武力の使用を放棄しない」といった記載もある。

 このような教えをたたきこまれた子どもたちが成長すれば、中国という国はこれまで以上に日本やアメリカにとって大きな脅威となるのではないだろうか。

 そもそも、個人の思想が教材に反映されるのは、今なお中華人民共和国建国の英雄と評される初代の最高指導者、毛沢東以来である。

 中国では、鄧小平時代以降、毛沢東時代の1966年から10年間にわたり繰り広げられた文化大革命(個人崇拝を利用し権力を奪回するための政治闘争)への反省から、個人崇拝の悪癖を排除してきたが、教科書の一件は、習氏もまた毛沢東と同様、崇拝の対象になったことを意味している。

 崇拝という意味では、同時期に中国共産党の中央宣伝部が公表した「中国共産党の歴史的使命と行動価値」と題する文書にも注目したい。文書では、個人崇拝について否定し、「習近平による強権体制」と批判されないよう配慮をにじませながらも、習氏を大国のかじ取りを担う存在として毛沢東と同等の扱いで紹介した。

 こうした中、習氏は、IT企業や不動産企業、それに受験産業や芸能界にまで締めつけの手を伸ばしている。先頃、世界同時株安を招いた不動産大手、恒大集団などはその犠牲者のようなものだ。