社会貢献とビジネスを両立させるしくみ、「Winの累乗」。連載第1回で、この新しいビジネスモデルのあり方を提唱したのが、たった「20円」で全世界20億人にリーチする活動を展開しているNPO、テーブル・フォー・ツー・インターナショナル(TFT)代表の小暮真久氏。
<自社を取り巻くすべてにおいて『Win』を作り、それをどんどん増やすことが、グローバルにビジネスを成功させることにつながる>という「Winの累乗」について、小暮氏が「本業を通して社会にいいことを成し遂げる」ための実践例を紹介します。
最終回となる今回は、競合という従来の同業者との関係を越えて、「協業」というあたらしい仕組みを構築してWinを生み出すための方法を、味の素がガーナに進出する際に取り組んだ「ガーナプロジェクト」を例に考えます。
競合と手を組むなんてありえない?
――「一人勝ち」ではなく「みんな勝ち」の戦略
「味の素が、ガーナに進出」――こんな見出しを経済紙に見つけたら、みなさんはどんなことをイメージしますか?
本社から現地に人を送り込み、工場を建てて、現地の競合企業にはない強みで勝負して……といったことでしょうか?もちろん、そういった従来通りの戦略も選択肢の一つとしてあったでしょう。しかし味の素が採用した戦略は、従来とは発想を逆転させたものでした。その手とは、競合と手を結んでバリューチェーンを作る、という戦略です。
今回のテーマは、まさに味の素が実践しつつある、Competitor――競合、ではなくCooperator――協業者にWinを作る、というもの。とはいえ、企業で働く皆さんの多くは、「競合じゃなく協業?いまいちピンとこない……」と思うかもしれません。そもそも他社の人と働く、という時に思い浮かぶのは出入りの業者や取引先など、金銭的な利害関係があることが多い。産学連携やNPOとの協業も最近よく聞くけどそこまで一般化しているわけでもないし、同じ事業領域や市場の中で戦う競合と一緒に働くことなんて、買収・合併でもない限りありえない…といったところでしょうか。
けれど、実際に「協業」を推進しながら一緒に働く他社にWinを作り、のみならず顧客にもWinを作っている企業はあります。今回見ていくのは、そんな企業の一つ味の素です。彼らが実現しようとしていることを見ながら、「一人勝ち」ではなく「みんな勝ち」、競合(Competitor)ではなく協業(Cooperator)、ということを念頭に置いて、今まで見てきた5Cすべての枠組みにおいてWinの累乗を生み出していくにはどうしたらよいかを考えたいと思います。