企業の「中国離れ」は加速
富裕層は水面下で子息への外国語教育を強化

 アリババやテンセントなど中国のIT先端企業は、共産党政権に応じて社会慈善事業を強化している。それは共産党政権に恭順の意を示して、さらなる締め付けから身を守るための取り組みだろう。裏を返せば、ひとまずは共同富裕に貢献する姿勢を示すことによって、中国のIT先端企業などは今後の対応策を準備する時間を稼ごうとしているようにみえる。

 一つの展開として、企業の「中国離れ」は加速するだろう。すでに中国では生産年齢人口が減少し、人件費は上昇し始めた。世界の工場としての地位は低下し、中国外に生産拠点を移す企業も増えている。それに加えて、共産党政権の締め付けから逃れるために、中国から海外に拠点を移す企業家も増える可能性が高い。

 共産党政権は生産要素の海外流出を抑えなければならず、社会と経済への統制は追加的に引き締められるだろう。デジタル人民元の発行を目指しているのはそのためだ。また、英語教育への規制が強化されている背景にも、人々欧米のリベラルな価値観に習熟し、共産党一党独裁体制への疑念が強まることを防ぐ狙いがある。

 ただ、人々の自由への渇望を、力で抑え続けることはできない。富裕層は水面下で子息への外国語教育などを強化し、より自由な環境を手に入れようとするだろう。長期的に考えると、共同富裕を目指すことで共産党政権が自由を求める人々の反発心をなだめ、抑えることができるとは考えづらい。

 リーマンショック後の中国経済では、アリババやテンセントなどが米国のIT先端技術を積極的に取り込んで経済のデジタル化を支え、より効率的な資源配分を支えた。しかし、共産党政権はそうした強みに磨きをかけるのではなく、共同富裕のために強い部分を減殺し始めているように映る。

 2035年に共同富裕を実現して新時代の中国経済を築こうとする習氏の構想は、中国経済の実力をそぐだろう。