熊本県産の次に
愛知県産が狙われる理由

 こうした中、市場では国産アサリが品薄となり高騰している。中国産や韓国産の多くは、外食や加工品に使用されることが多い。アサリも、みそ汁、酒蒸し、深川めし、ボンゴレ、クラムチャウダー等、和・洋・中と非常に多くの料理に使われる人気の食材だ。

 ところが国産アサリは、その需要に応えるだけの供給量がない。先述の通り、4400トンしか漁獲されていないのに、需要は3倍(約1万2552トン)近くあるのだ。まさに「喉から手が出るほどアサリが欲しい」状況である。

 そうかといって、消費者の中国産アサリへの不安は強い。現に、中国産アサリ固有の問題として、除草剤が基準値を上回って輸入検疫時に違反となることも多い。

 21年度では、すでに5件の違反事例がある。それ以外に、A型肝炎ウイルスが検出されることもあり、昨年「韓国でA型肝炎ウイルスが検出された中国産貝類加工品の回収が行われている」という情報があり、厚生労働省は6月に「回収対象企業の製品が輸入届出された場合には積み戻し等を行う措置を講じるように」という通知を出している。

 やはり国産アサリの方が安心なので需要は多い。そういう状況なので、偽装表示をたくらむ業者が出てくる可能性がある。

 その際、中国産を熊本県産とはしないだろう。ターゲットとなるのは、日本一の漁獲量の愛知県産ではないだろうか。

 北海道は2番目に多く漁獲されているが、遠方の北海道産が全国に流通するというのは疑わしい。農水省の調査でも、販売地域は北海道、東北、関東が中心だった。一方愛知県は、関東、東海、近畿を中心に販売されている。愛知県は、ほぼ本州の真ん中なので、北海道以外で流通していても不自然ではない。

 今回の偽装事件で、国産アサリの漁獲量が多いのは熊本県ではなく愛知県や北海道だと広く知れ渡った。消費者はともかく、小売店や流通業者は熊本県産を取り扱うのに二の足を踏むだろう。漁獲量が日本一である愛知県産アサリが、小売店の店頭にずらっと並ぶのは、流通業者にとっても消費者にとっても違和感がない。しかも、DNA鑑定をしなければ判別できないのだ。貝類は、非常に偽装がしやすい食材といえる。