さらに筆者が「ウクライナ侵攻はプーチン体制の終わりの始まりか」と聞くと、サッター氏は「短期的には(プーチン体制が終わることは)考えにくい」としながらも、「可能性はゼロではない」として、その理由についてこう語る。

「ウクライナに侵攻したロシア兵の中には多くの若者がいて、まだ10代の兵士が戦地に送られていることが少しずつ判明している。戦死者や戦地で戦う兵士の情報をロシアは国内でほとんど明らかにしておらず、戦死もしくは捕虜となったロシア兵の情報提供をウクライナ側が行っているのが現実だ。情報戦の意味合いもあるが、ウクライナは戦死したり捕虜となったロシア兵の情報を彼らの母親に向けてロシア語で発信するホットラインを開設しており、ロシア側からたくさんの相談が来ている。戦争の意義に納得しないロシア人が増え、兵士の親や退役軍人らのフラストレーションが頂点に達したとき、何かが起こっても不思議ではない」

ベラルーシのルカシェンコ政権が
一気にロシア寄りになった理由

 ウクライナ全土でロシア軍が攻撃を繰り返し、ウクライナ軍と市民が抗戦を続けるという流れが続いている(3月2日現在)。

 ウクライナ・ロシアの両方と国境を接し、現在はロシアにとって唯一の同盟国と言っても過言ではないベラルーシ。ソ連崩壊後の1994年にベラルーシで初めて行われた大統領選挙に勝利したアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、大統領の任期を延長する法律を作り、ベラルーシの憲法で定められていた大統領の3選禁止条項を廃止、間もなく大統領に就任してから28年となる(現在6期目)。

 不正選挙疑惑や反体制派への弾圧に注目が集まり、「欧州最後の独裁者」というニックネームが付けられた人物だが、過去にはウクライナとロシアの調停役として動き、プーチン政権に対する敵対心をあらわにしたこともある。

 2月27日、ベラルーシでは憲法に記載された「自国を非核地帯とする」という条文の削除を巡る国民投票が行われ、賛成65.1%で改憲が成立した。これによりベラルーシ国内にロシア軍の核兵器が配備される可能性が高まった。

 過去には調停役と考えられたルカシェンコ大統領が極端なロシア寄りの姿勢を見せるのにはどういった理由があるのか。リトアニアの首都ビリニュスにある東ヨーロッパスタディーセンターでリサーチを担当し、2020年にベラルーシで発生した反政府デモを長期間取材したのち、現在はアメリカのイェール大学で学ぶマクシマス・ミルタ氏は次のように語る。