2014年はウクライナ軍が早い段階でクリミアから撤退し、ロシアは大きな損害を出さずに同年3月18日にクリミアを併合することに成功した。

 だが、国際社会からの反発は強く、3月24日にはG8という名称で行われていた主要国首脳会議におけるロシアの参加資格停止が決定。その年にロシアのソチで行われる予定であったG8サミットは、G7サミットとしてベルギーのブリュッセルで行われた。

 ロシアの参加資格停止は西側諸国との関係悪化を象徴する出来事であったが、クリミア併合直後にロシア国内で独立系調査機関が行ったプーチン大統領の支持率は8割に達した。

 今回の2月24日に始まったロシアのウクライナに対する軍事侵攻は当初、「キエフが数日中に陥落する可能性がある」と、複数の米メディアが諜報機関関係者の談話を報じていた。だが、3月2日の時点でキエフだけではなく、ウクライナ国内の主要都市をロシア軍が制圧できない状態が続いている。

 欧米各国から対戦車ミサイルや地対空ミサイルの提供を受け、ウクライナ軍だけではなく、市民も銃や火炎瓶を手にして徹底抗戦する中、軍事作戦が計画通りに進まないことにプーチン大統領がいら立ちを隠せないという報道も出始めた。

 絶大な権力を持ち、政権の主要ポストに自身と似たバックグラウンドを持つシロヴィキ(公安関係出身者)を配置するプーチン大統領の政治基盤は揺るがないものと考えられていたが、果たしてそうなのだろうか。

 フィナンシャル・タイムズの記者として1970年代からモスクワに住み、プーチン政権を批判する複数の著書を上梓したのち、2013年にロシア政府から国外退去を命じられたアメリカ人ジャーナリストのデービッド・サッタ―氏に「ロシアは過去8年で変わったのか」と聞いたところ、サッター氏は「ノー」と即答し、次のように続けた。

「政治システムは何も変わっていない。むしろ、プーチン大統領の強硬的な手腕がより目立つようになってしまった。ロシアでも大統領選挙は民主的な方法で行われるが、仮にプーチンが敗れた場合、正しい形で後継者に権力を委譲できるかは疑問だ。ウクライナ大統領選挙でゼレンスキーが新しいリーダーに選ばれ、現職のポロシェンコが敗れた際は、大統領職の引き継ぎは問題なく行われた。ここにウクライナとロシアの差があると思う」