牛肉では脱オーストラリアが進む

 牛肉でも「単一国依存からの脱却」が起こっている。

 オーストラリアが中国のコロナ対策を批判して以来、外交や貿易でいがみ合う中豪関係だが、中国はオーストラリア産の牛肉の輸入を制限、その代替としてロシア産の牛肉の輸入を急増させている。2021年上半期、ロシアはオーストラリアを抜いて中国にとって最大の牛肉輸出国となった。

 一方で、将来的にはパキスタン産の牛肉も中国の食卓に上るのではないかと予測されている。「一帯一路」構想の主軸となる「中国パキスタン経済回廊」では、中国資本がパキスタン南西部のグワダル港で行う港湾開発は有名だが、ここを対中牛肉輸出の拠点として活用しようという計画があるのだ。

 畜産業は、パキスタンにとって重要な産業の一つだ。

 データ調査会社「Knoema」によれば、パキスタンにおける牛と水牛の肉の生産量は2020年に182万トンで、2001年の90万トンから20年で倍増した。中国はこれに目を付けたわけだが、パキスタンが口蹄疫(こうていえき)の流行国であるため、現在は輸入ができない状況だ。そこで中国は、中国税関と検疫当局を巻き込み、パキスタンとの協力で自由貿易区における「口蹄疫の非感染ゾーン」の設立に乗り出した。中国の動物検疫をクリアさせるため、グワダル港には中国の技術と資本で家畜用のワクチン工場も建設する予定だ(中国「経済日報」、2021年4月)。

 渦中にあるウクライナもまた、「一帯一路」の沿線国の一つだ。

 2015年に「一帯一路」の協定を締結して以降、中国は2020年に湖北省武漢市とウクライナの首都キエフを結ぶ貨物列車「中欧班列」を開通させ、ウクライナから穀物を吸い上げる大動脈を完成させた。「欧州の穀物地帯」と呼ばれるウクライナの農産物輸出は、現在、ロシアの侵攻を受け危機にさらされているが、近年はウクライナの穀物の最大の買い手として中国がエジプトに取って代わり、過去3年で中国への穀物の輸出は3倍になった(「中国商務部新聞網」、2021年3月)。

 中国国務院(日本の内閣に相当)は年初の記者会見で、「『一帯一路』の沿線国貿易が飛躍的に伸びている」と発表した。2021年に中国が「一帯一路」の沿線国から輸入した農産物は3265億元で、前年比26%増だった。ちなみに原油は1兆1800億元で44%増である。

 混沌とした世界情勢の中で、中国は「一帯一路」で掲げる「中国~モンゴル~ロシア経済回廊」や「中国・パキスタン経済回廊」、「中欧班列」に生命線を見いだす。2019年、中国はロシアとの2国間関係を「中露の新時代の包括的・戦略的協力パートナーシップ」に格上げしている。

 米中対立が峻烈を極め、台湾併合のタイミングをうかがう中国は、民主主義陣営による“兵糧攻め”をも念頭に置いているのだろう。中国の動きは、世界各国の食糧貿易に大きな影響を及ぼしそうだ。