それぞれ信じる正義は異なる
日本人が注意すべきこと

 なぜこうなってしまうのかというと、教育と報道によるものだ。そして何よりも大きいのは、「自国の利益や国民の命を守るための戦いは常に正しい」と信じる心、あるいは信じたいという願望など、ナショナリズムのバイアスである。

 それがよくわかるのが、モスクワ在住国際政治アナリストの村上大空氏が以下の現地レポートである。

「政治討論番組に至っては、『西側諸国がいかにロシアを騙してきたのか』『ウクライナ政権がどのような非人道的なことをしてきたのか」という論題ばかりになっており、その主張の正当性や事実関係に対しては、疑問が挟まれない。

 このようなメディア空間では、『悪いのは欧米諸国である』『すべては米国の責任』『ウクライナ国民は、洗脳されている』という情報だけがシャワーとして浴びせ続けられる。通常は陰謀論として扱われるような内容が、ロシアでは「真実」として広く共有されている」(現代ビジネス、3月21日)

 上記にある文章内の「ロシア」という言葉を「日本」に、「ウクライナ」を「中国や韓国」に入れ替えていただきたい。ネットやSNSに溢れる日本の愛国者の皆さんの主張そのものではないか。

 断っておくが、だからナショナリズムが悪いとか言いたいわけではない。国にはそれぞれ信じている正義が大きく異なっており、単純にあちらが悪い、こちらが洗脳されているというような問題ではないということを指摘したいだけである。そして、自国が信じている正義を、武力を用いて、他国にまで押し付けようとすることこそが、「戦争」というものの本質なのだ。

 ゼレンスキー大統領の演説が賞賛されたことで、日本中でウクライナ支援の声が高まっている。戦争の犠牲になる人々の命を救うためにできる限りの国際協力をするのは当然だが、ウクライナの「正義」だけに肩入れをして、西側諸国と一緒になってロシアを「悪」と断罪するようなことは避けなくてはいけない。「西側諸国の正義」を制裁や武力でロシアに押し付けて屈服させようとしても、それは新たな憎悪と戦争を生み出すだけだ。

 それはまさしく第一次世界大戦後にドイツでナチスが台頭した原因であるし、80年前の日本の軍国主義が先鋭化したきっかけでもある

 プーチン大統領にもっと厳しい制裁をすべきだ。この戦いを終わらせるためには、ロシア国民を覚醒させて、プーチンを権力の座から引きずり落とすべきだ――。

 今、多くの日本人が、まるで自分たちの戦争であるかのように「ロシアをどうすれば屈服させられるか」を盛んに論じている。かつて自分たちを「テロリスト国家」扱いした「西側諸国の正義」に肩入れをして、それをロシアに押し付けようとしている。

 プーチンの主張を「正義」と感じるロシアの愛国者からすれば、日本は完全に「敵国」である。我々の祖父母が米英に感じていた憎悪と同じものではないか。

 このような日本の立ち振る舞いが、平和につながる方法だとはとても思えない。それどころか、新たな国家間紛争の幕開けになっているように感じるのは、筆者だけだろうか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)