若く、キャリアのない女性でも稼げる職業の一つが風俗や水商売。歌舞伎町という土地柄もあり、仕事へのチャンネルは多く用意されている。ホストクラブなども多い歌舞伎町と、推しカルチャーの親和性はかなり高いのだ。

 はたから見れば、健全ではないと思ってしまう構造だが、佐々木氏によれば、そこに「エモさ」を感じているぴえん系女子もいるという。

「『エモい』とは『エモーショナル』から派生した若者スラングで、情緒的な感情を表します。我が身を犠牲にして、推しに貢ぐ行為をエモいと感じる文化があり、推しのために身を粉にして働くというのは一つの美談になります。その中で、ボロボロになっている自分自身もエモいと感じるのです。個人的には、本人が幸せならばそれはそれでいいと思います。なんの目的もなく生きるよりは、誰かのために生きがいを求めている彼女らのほうが人生を楽しんでいるように見えますからね」

誰かを推すことで
自分の存在意義を確かめている

 ただ、そうした推しカルチャーに潜む、コミュニケーションの問題も佐々木氏は指摘する。

「推しは極論を言えば偶像崇拝なので、その人の良い面を自分で作り出し、それ以外の内面を見ていない場合が多い。例えば、推しが自分の意に沿わない言動をしてしまうと『推し降りる』と言い、勝手に幻滅して拒絶してしまうのはホストと客ではよくある話。ただ、この構造は歌舞伎町やホストと客に限らず、日常生活の人間関係にも影響すると思います。あまりにも推しカルチャーのマインドになっていると、友人関係などにおいても、ささいなことで『推し降りる』と似たような拒絶行動を取るケースもあります」

 昨年は「推し」が流行語大賞にノミネートされるなど、その文化は広く市民権を得ている。しかし、推しカルチャーが果てしなく高まっている歌舞伎町を知る佐々木氏は、その暗部にも目を向けるべきだと話す。