「悪い円安論」の行方
日銀の黒田総裁はどう見る?

 現在進行中の円安は、企業にとっても消費者にとっても、「コスト高」(消費者には生活コストの上昇)につながる「悪い円安」だとする物言いがある。この先には、日銀が金融政策を引き締め方向に転換して、為替レートを円高方向に誘導すべきだとの議論がなされることが多い。

 為替レートを「いい・悪い」で語ることの是非はともかくとして、現在は、円安にメリットが乏しいと指摘する向きもある。企業の国外生産が進んだこともあり、円安による輸出拡大のメリットが乏しいというのが一つの論拠だ。また、一時は大いに賑わった外国人観光客による需要が新型コロナウイルス感染拡大の影響で盛り上がらないこともあり、現在の日本経済は円安で潤う要素が乏しいとする議論だ。

 しかし、「円安」というと反射的に「輸出」とだけ連想しがちだが、円安になると別の二つのプラス効果も考えるべきだろう。輸入品と競合する国内製品の販売者にとって競争上の条件が有利になる点と、企業が海外で上げた利益の円換算額が増えて収益の増加要因になることの二つだ。

 日銀の黒田総裁が、総合的には円安の方が日本経済にとってプラスだとの判断を示している背景には、こうした要素も織り込まれているとみるべきだろう。

 また、資源価格の上昇が止まった段階では、その他の財の需要減少による価格下落から、一転して消費者物価全体に下落圧力が掛かる可能性がある。加えて、企業収益が圧迫されて賃金が伸びない状況となると、「物価は上昇しない」という予想が支配的になる公算が大きい。すなわち、デフレマインドの復活だ。