中国軍が太平洋を抑えることで
日本は米軍に頼れない可能性も

「中国は、相手が強く出てくると強く出る。特に習近平体制になってからその傾向がある」

 こう語るのは大東文化大学教授で、『新中国論』(平凡社新書)の著者、野嶋剛氏である。

 野嶋氏の指摘どおり、中国は、米韓、日米、そして日米豪印による「Quad(クアッド)」首脳会談で「中国包囲網」が強化されたのを受け、さっそく王毅(ワン・イー)外相が、5月26日からソロモン諸島やキリバスなど8カ国歴訪に出発した。

 この動きこそ注目すべきだ。ソロモン諸島は、中国と安全保障協定を結んでいる。キリバスも、中国と安全保障協定締結に向け交渉している国だ。

 ともに太平洋上にあり、ここに中国軍機が離着陸し、中国軍の艦艇が停泊できるようになれば、アメリカ軍は自由に航行がしにくくなるほか、グアムやハワイの基地まで脅かされることになる。

 陸上自衛隊元陸将の渡部悦和氏は筆者の取材に、「太平洋上の諸島を中国に押さえられるとアメリカ軍は動きにくくなる」と語る。

 渡部氏ら自衛隊関係者やアメリカ軍関係者によれば、有事の際、沖縄に駐留するアメリカ軍は、中国軍の攻撃を回避するため、一度、グアムかハワイまで退くという。

 そこで態勢を整えて、台湾や尖閣諸島を防衛するため前線に出てくるというのだが、ソロモン諸島やキリバスを押さえられれば、それさえ難しくなる可能性があるということだ。

 アメリカ軍がいったん退けば、中国と正面から対峙するのは日本の自衛隊である。「違憲だ」「合憲だ」などと悠長な議論をしている暇はない。

 岸田首相はバイデン大統領との会談で、日本の防衛費の増額を表明したが、いつまでも「アメリカ頼み」ではいられない実情もあるのである。