台湾・尖閣有事で懸念される
「事実認定」のグレーゾーン

 3カ月余りにわたり国際社会の注目を集めてきた、ロシアのウクライナ侵攻。ウクライナ軍の善戦は評価すべきだが、東部や南部の厳しい戦況は、中国という脅威を抱える日本や台湾にとって、「攻められてからでは遅い」という教訓を残した。

 仮に今、中国が尖閣諸島や台湾を武力で統一しようと動いた場合、日本の対応は間違いなく後手に回る。

 自衛隊が防衛大臣や総理大臣の命令を受け実施する海上警備行動や防衛出動では、島が制圧された後に稼働することになるだろう。

 振り返れば、2021年8月、自衛隊の元幹部ら30人が、東京・市谷のホテルで実施したシミュレーションは、そんな不安を感じさせるものだった。

 日本は、安倍政権下の2015年9月に成立し、翌年3月に施行された安全保障関連法によって、自衛隊の活動範囲が拡大され、集団的自衛権の行使も可能になった。

 平和安全法制とも呼ばれる法律の制定によって、日本や国際社会の平和、安全のため、切れ目のない体制が整備されることになった。しかし、簡単にはいかない。

 安全保障関連法で定められた「事態認定」は下記の三つである。

(1)重要影響事態
 放置すれば日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態など 日本の平和と安全に重要な影響を与える事態
→アメリカ軍などへの後方支援が可能になる。

(2)存立危機事態
 密接な関係にある外国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
→日本が直接攻撃を受けていなくても、集団的自衛権を行使して必要最小限度の武力行使が可能になる。

(3)武力攻撃事態
 日本に対する武力攻撃が発生
→必要最小限度の武力行使が可能になる。

 このように大別されているのだが、中国による台湾や尖閣諸島に対する動きがどの事態に当てはまるのか、まだ武力行使に至っていない「グレーゾーン」の場合、線引きは難しい。

 前述のシミュレーションでも、「事態認定」について「これは重要影響事態」「いや、存立危機事態でないと対応が限定される」と、軍事の専門家であるはずの自衛隊制服組OBの間でも意見が割れた。結局、2日間にわたって行われたシミュレーションで、「事態認定」についての結論は出なかった。

 机上でのシミュレーション訓練ですら、この状態だ。実際に中国軍が台湾や尖閣諸島に迫る動きを見せた場合、「事態認定」だけで相当な時間を要することが予想される。そうなると、台湾はともかく、尖閣諸島など数日で制圧されてしまうだろう。