Aさんは結局、高校を中退。飲食店などのアルバイトを探してもなかなか長続きせず、家にひきこもる状況に至った。

「接客が向いていないなって。人から何かを強く言われると、自分はここにいてはいけないんじゃないかって思っちゃうんです。仕事は続けたいけど、人が無理だなということが結構ありまして…」

 職場に行っても働いているうちに具合が悪くなり、倒れることもあった。そうやって1~2日考えた末、店長などに“ちょっと無理です”と伝え、辞めることを繰り返した。

「そうなると、誰ともしゃべりたくなくて、誰にも会わないで部屋にこもってしまう。自分を変えようと思って頑張ったのに、やはり変われなかった自分に絶望していくんですね」(Aさん)

 こうして、どこに相談したらいいかも分からずにいた2021年12月頃、区から届いた調査票を見て、祖母が区のひきこもり施策係に連絡。祖母から「区役所に行くよ」と声をかけられ、一緒に相談窓口を訪ねた。

「最初は『ん?』と思ったんですが、自分も外に出たいという気持ちもあったので、行くだけ行ってみる、という感じでした」(Aさん)

 最初は半信半疑だったが、自分のことを受け止めてくれる区の女性相談員Bさんに出会った。Aさんは彼女から、区が開設した短時間の仕事からでも紹介している「みんなの就労センター」に「行ってみない?」と言われ、一緒に付き添ってくれたという。

 こうしてAさんは、公的機関の中で週に3日、午前中だけ、書類の折り作業や押印などの仕事に取り組み始めた。Aさんは「強く言う人がいないから、すごくやりやすい」と、何とか働くことができたことを喜んでいる。

「母親から“働け”と言われてケンカになることもありました。もしBさんがいなかったら、私は今もひきこもっていました。最初に自分が選んだ仕事の面接に落ちたときもホメてくれて、前向きになれたんです」

 ただし、全国に目を向けると、Aさんのように家族や相談員の助けで前向きになれた人ばかりではない。むしろ、コロナ禍によって精神状態や家族関係が悪化したひきこもり当事者も存在する。