トランプ一族の金庫番が司法取引
裁判証言で窮地に陥る可能性も

 また、トランプが起訴され出馬できなくことも考えられる。史上初2回もの連邦議会の弾劾裁判をすり抜けたトランプだが、フロリダの私邸にFBIが家宅捜索に入るとは思っていなかった。大統領経験者が家宅捜索を受けた前例がないからだ。

 起訴できる確証がなければFBIが前例のない前大統領の家宅捜索に踏み切らないだろう。なにしろ相手は虚言、妄言、暴言のトランプだ。

 司法省による異例の申請で公開された捜査令状によると、捜索容疑は公文書の隠匿・破棄、スパイ防止法違反、連邦捜査に関わる文書の破棄や改ざんというから事態は深刻だ。

 押収品リストの中には最高機密を含む11組の機密文書があり、中には「TS/SCI」と呼ばれる最高機密もあった。核関連など漏えいされれば米国の国家安全保障に「きわめて重大」な打撃を与える情報のことである。

 昨年の大統領退任時にトランプはホワイトハウスから機密文書を含む公文書を無断で持ち出したことが明らかになり、今年に入って国立公文書記録管理局がトランプの邸宅から段ボール箱15個分の文書を回収していた。だがそれ以外にもトランプが機密文書を隠し持っていることをFBIが突き止めていたのである。

 米国では1978年の大統領記録法によって、大統領の公務に関する電子メールやメモ、書簡などあらゆる記録を保存し、退任時に国立公文書記録管理局に提出することが義務付けられている。貴重な歴史的資料だからだ。機密文書隠匿罪は2000ドルの罰金と3年以内の禁錮刑。スパイ防止法違反で有罪になれば文書ごとに最高10年の実刑となる。

 ただ、3カ月後に迫った中間選挙前に司法省が訴追すると、選挙に影響を与えるだけでなく政治的謀略だと批判されることは間違いない。おそらく訴追は来年になるのではないか。トランプ支持者が多い共和党はすでに「司直の政治化」だとして猛反発している。

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 家宅捜索とほぼ時を同じくして、米ニューヨーク・タイムズ紙の記者が今秋に発売する著書で、トランプが在任中に公文書を頻繁にトイレに流していたことを証拠写真とともに暴露していることが明らかになった。米ニュースサイトAXIOSによって公開されたその写真を私も見たが、便器の中に沈んだ紙片にある文字はトランプの筆跡と酷似している。

 事実なら公文書破棄の常習犯だったことになる。間違ってもそんな人物を大統領に再選してはいけない。

 18日、さらにトランプを窮地に追い込むニュースが飛び込んできた。長年とトランプ一族の忠実な金庫番を務め、誰よりも黒い金の流れを知り尽くしている最高財務責任者アレン・ワイゼルバーグが司法取引に応じて脱税など15件の罪を認め、裁判で証言することに同意したのだ。

 さすがのトランプも今回は無傷で逃げ切るのは難しいのではないか。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)