米国のトランプ前大統領米国のトランプ前大統領 Photo:Brandon Bell/gettyimages

共和党予備選挙で見せた
トランプの強い影響力

 なんとも恐ろしいまでの復讐劇だった。今年秋の中間選挙に向けた米国共和党予備選挙のことである。

 昨年1月の2回目の弾劾裁判でトランプ前大統領に反旗を翻した勇気ある10人の共和党下院議員のうち4人がトランプの放った“刺客候補”に破れ、他4人も出馬を断念。辛くも勝ち抜いたのはわずか2人だけという結果となったからだ。

 退任後もトランプが恐怖支配で共和党内に強い影響力を持ち続けていることを見せつけたかたちだ。

 だが、皮肉なことに、この復讐劇が2年後の大統領選で再選をもくろむトランプの命取りになるかもしれない。

 ワイオミング州予備選で対立候補に37ポイント以上の大差で敗れた反トランプの急先鋒リズ・チェイニーは8月17日、NBCのニュース番組「トゥデイ」出演し、「あらゆる手段を使ってトランプをホワイトハウスに近づけないようにする」と宣言。2024年の大統領選への出馬を検討していることを明らかにした。

「トランプが米国にとって非常に重大な脅威とリスク」を及ぼしているというのがその理由だ。

 リズ・チェイニーは、ブッシュ(子)政権で副大統領を務めた父ディック・チェイニーの地盤を引き継いで下院議員を3期務め、共和党保守派の期待の星と目されていた。

 2年前の共和党予備選では得票率73%で大勝。昨年1月の連邦議会襲撃事件でトランプ大統領を批判して解任されるまでは共和党下院で第3位の重要ポストに就いていた。議会襲撃事件を調査する超党派の下院特別委員会でも副議長を務めていた。

 今回のチェイニー敗退の背景には、トランプが仕掛けた“刺客”候補以外にも、ワイオミング州の事情があった。

 米50州で最も人口が少ないワイオミング州(約58万人)の経済は石炭などの化石燃料産業に依存しているため同産業を優遇するトランプの人気が根強いのだ。住民からはチェイニーが前大統領の不正追及に固執し、地元の意見を代表していないという批判の声も上がっていた。