野村VSメガバンク 市場大乱の死闘#1Photo:Bloomberg/gettyimages

飛び込み1日100件、巻き紙の手紙……。野村證券の個人営業といえば数々のモーレツ伝説に事欠かないが、2021年4月から様変わりした。顧客本位の営業を教え込むきめ細やかな新人教育に期待する半面、業界からは「物足りない」との声が上がる。特集『野村VSメガバンク 市場大乱の死闘』(全7回)の#1では、野村の個人営業の大転換の狙いに迫る。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

新入社員は静かなコールセンターへ
守旧派、改革派から賛否両論の改革

 腕に覚えがあり、自身のガッツを試してみたいと期待を膨らまして、国内証券業界で圧倒的な最大手である野村證券の門をたたいた若者たち。

 彼らにとっての初めての職場は、至って静かだ。神奈川県川崎市、武蔵小杉駅前のオフィスビルの広いフロア。パーテーションで仕切られた整然と並んだデスクに座って、電話で顧客への対応、そして金融商品の販売活動に当たっている。野村が「コンタクトセンター」と呼ぶ、電話を介して手続きや商品勧誘を行う部署である。

 9月上旬、センターを訪ねると、入社1~2年目の数十人がインカムを装着して、顧客に商品の説明をしていた。やや緊張した面持ちで、ゆっくりとした口調で顧客の要望を聞き取っていた。

 1日100件の飛び込み営業。巻き紙に自身の信念や熱意をしたためて顧客に送る。成績優秀者は若手でも出世の階段を上るが、ノルマ未達なら厳しく叱責され、自腹で金融商品を購入する――。野村のみならず、証券業界の個人営業部門では少し前まで、こうしたあまりに泥くさい前近代的な手法が当たり前のように実践されていた。

 だが、若者の職業観の変化や「働き方改革」に加え、顧客のプライバシー意識も高まっている。加えて2020年春からの新型コロナウイルスの感染拡大により、同居者以外との接触自体が忌避され、飛び込み営業はより難しくなった。

 もっとも野村が個人営業の見直しを決めたのは、コロナ禍の前だ。金融庁がここ数年「顧客本位の業務運営」を金融機関に求めており、証券業界ではかつてのように、顧客のニーズや資産形成と無関係に商品を売買させ、手数料を荒稼ぎすることが難しくなった。

 とはいえ、新入社員を“鍛える”環境が果たして、コールセンターでいいのか。社内や同業他社からでさえ「“野村らしさ”が失われる」と惜しむ声がある。

 その半面、同社の営業の最前線を知る人々からは「顧客本位のビジネスへの改革は、まだまだ不十分だ」との指摘もある。いわば守旧派、改革派の全く逆の立場から、それぞれ厳しい見方が示されており、その評価は定まらない。

 いずれにせよ社会の変化を考えれば、野村が昭和から平成にかけて成長の原動力としてきた“ゴリゴリ営業”に後戻りすることは不可能だ。だが、三大メガバンクグループ傘下の証券会社が銀行との連携を強めて猛追する中、令和の野村はこれからも“王者”であり続けることはできるのか――。

 創業97年の歴史を持つ野村は今、創業以来の激動期を迎えている。その要の一つが「リテール改革」だ。

 まずは激変する新入社員の教育現場から、野村改革の成否を検証する。