世界最高齢の総務部員<br />勤続66年の92歳総務課長が<br />“働く女性の流儀”を指南

仕事をしながら、育児に家事に、忙しい日々を送る女性は多い。なかなか自分の時間を取れず、いつも気持ちにゆとりがもてない。そんな状態で、自分自身を責めてしまう人もいるかもしれない。そんな人が参考するべきが『92歳 総務課長の教え』(ダイヤモンド社)だ。今の会社に66年勤務する著者の玉置泰子さんは、働く女性に「完璧にやろうとせず、あまり無理せんでいいよと伝えたい」という。玉置さんは「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録に認定され、今もなおフルタイム勤務を続けている。最終回となる今回は、働く女性へのメッセージと、玉置さんが100歳で退職した後の夢について聞いた。(取材・構成/久保佳那)

完璧でなくていい、リラックスして仕事を楽しんで!

―玉置さんが長く働いてこられる中で、女性の働き方は大きく変化したと思います。その変化について玉置さんはどうお考えですか?

玉置泰子(以下、玉置):キャリア志向の強い女性は、ビシッとスーツを着こなして、上司や部下、取引先とやり取りをしているみたいなイメージがあります。けれど、それはテレビの影響が大きいんじゃないかと思います。働く女性は増えましたけど、みんながみんなテレビで見るようなキャリアウーマンではないですよね。

優しさやねばり強さをもって、仕事で会社に貢献することも素晴らしいことだと思います。うちの会社は女性比率が4割を超えていて、結婚して出産してからも、仕事復帰している人がほとんどです。時短勤務をして家庭と仕事を両立している人が多いですね。

―働く女性はどんどん増えていますよね。

玉置:結婚して出産し、育児や家事などをしながら仕事を続けていくのは、私は経験していないことです。とてもすごいことで、素晴らしいと思っています。

―頑張っている女性たちに、なにか言葉をかけるとしたらいかがですか?

玉置「完璧にやろうとして、あんまり無理せんでいいよ」と伝えたいですね。一人きりで頑張らずにみんなで助け合っていきましょう。家庭を大事にしながら、仕事も楽しんでいいのよと思っています。

落胆して自分を追い詰めなくていい

―すべてを完璧にやろうとすると、楽しむゆとりがなくなってしまうということですか?

玉置:例えば、女性の営業課長が部下の男性とお客様のところに行ったとき、お客様は男性の営業とばかり話したとしましょう。「課長として完璧な仕事をしなくては」と思っていると、きっと落胆しますよね。でも、自分自身を追い詰めなくていいんです。もっとリラックスして仕事に臨んで大丈夫。

それに、お母さんと過ごす時間が短いと、子どもはお母さんの愛情を感じられなくなってしまうかもしれません。そうならないように、うちの会社では、子どものいるお母さんたちは時短勤務が選択できて、出勤や退勤時間を決められます。

みんなが主役をはるキャリアウーマンじゃなくてもいいですし、脇役は脇役の品格が存在すると思うんです。ほとんどの働く女性は、仕事帰りにスーパーで買い物をして家に帰るような普通の人たちです。普通の生活を送りながらも、いい仕事をしている女性はたくさんいます。そんな方たちが楽しく仕事をして、家庭も大切にできることが一番だと考えています。

「いっちょかみ精神」で交流を楽しんできた

―長く働いてきた中で、玉置さん自身は職業人としてどのように変化されましたか?

玉置:最初のうちは無我夢中で仕事してきたという感じです。そのうちに会社が成長して社員も増えていきました。日本社会が高度経済成長期に入り、会社も成長していく段階では部門長会議にも参加させてもらい、次第に会社の経営を意識するような職業人になっていったと思います。

うちの会社はなんでもチャレンジさせてくれる社風なので、会社との一体感をもって働けています。

―さまざまな変化の中でチャレンジしてこられたのですね。会社には幅広い年齢層の方がいると思いますが、若手の方とも交流されていますか?

玉置:業務と少し離れたところでは、会社でクラブ活動も行われるようになってからは、若手の社員さんに交ざって、「いっちょかみ精神」をもって、テニス部やスキー部などのクラブ活動に参加していました。この頃を、私の中では“第二の青春時代”と呼んでいます(笑)

70歳までスキーを続けた

―「いっちょかみ精神」とは、どん心意気なのでしょうか?

玉置:いっちょかみとは、大阪弁で「なんにでも口をはさむ、首を突っ込む」という意味です。私は面白そうなことをやらずにはいられないんです。スキー部は70歳まで続けて、毎シーズン北海道のニセコでスキーをしていました。たくさんの若い社員とお友だちになって、若いエネルギーをもらいながら楽しく活動してこられたのはいい思い出です。

―クラブ活動で若手の方と交流されていたんですね。職場では、どんな相談をされることが多いですか?

玉置:社歴が長いので、みなさんが入社する前の会社のことを聞かれたりすることは多いですね。例えば、「このプロジェクトはいつ、どんな目的でスタートしたんですか?」と聞かれるときなどは、背景を説明して「これを基に考えてみて」と返事をしています。

また、取引先へのお手紙や書類作成を手伝うことも、私の仕事のひとつです。お祝いや慶弔のときに、「社内マニュアルもありますが、通り一遍ではなく、少し気の利いた言葉を添えたいんですが何かないですか?」と聞かれることもあります。

「上書きを書くときに、玉串料、お香典、お供えのどれを書いたらいいか?」などと質問されて、アドバイスすることも。喜んでもらえることが多く、「これは年の功です」と伝えています(笑)

100歳から夢を叶えたい

ご著書の中で、「100歳まで働きたい」とおっしゃっていましたが、いつ頃からそう思われているんですか?

玉置:契約更新のときに、マネージャーから「100歳まで働いてくださいね」と言われたんです。はじめは「100歳…!」と思いましたが、すぐに「今92歳だから、あと8年なのか…。8年なら、意外とすぐかもしれない!」と思って、100歳を目指すことにしました。

何事もプラスにとらえる性格なので、きっと100歳まで働けるんじゃないかなと思っています。やりたい仕事はまだまだありますし、会社から必要とされているなら、ありがたいことですよね。このまま働き続けたら、毎年ギネス記録を更新し続けていくこともできます。

―100歳で仕事をやめたら、やりたい夢があるとご著書に書かれていました。100歳まで働くのもすごいことなのに、その先の夢もお持ちだとは…!

玉置:100歳で退職したら、エッセイを書いてみたいんです。私の人生の財産は、人との付き合いと、たくさん本を読んできたことなので、人と本をテーマにしたエッセイを書いてみたいです。

うちの両親は二人とも文学好きだったので、妹と二人暮らしの自宅には1冊390円だった頃の世界文学全集がまだ残っているんですよ。本は全部で300冊以上はあると思います。

―本はどのくらい読まれたんですか?

玉置:これまで読んできた本は4000冊以上でしょうか。人も本も出会いは一期一会ですし、貴重な宝物のような体験をたくさんしてきました。昔から本が好きで、子どもの頃は「物書きになりたい」なんて思っていたこともあるんですよ。当時は家計を支えなくてはいけないので諦めましたが、100歳になったら当時の夢をかなえてみたいです。

本記事は『92歳 総務課長の教え』(ダイヤモンド社)の著者・玉置泰子さんのインタビューです。

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第1回 エクセルの達人・92歳の現役総務課長はなぜ新しいことを貪欲に吸収できるのか?
第2回 できる上司はやっている! 部下の心をつかんで離さない“ちょっとしたお返し”
第3回 入社してすぐに辞めようと思った会社に66年勤めているワケ

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