できる上司はやっている!<br />部下の心をつかんで離さない<br />“ちょっとしたお返し”

会社で働く人たちの悩みの多くは「人間関係」にあるといわれる。上司は「部下がなぜ期待した成果を出せないのか」と悩み、部下は「上司が自分を正当に評価してくれていない」と悩む。上司や部下との人間関係は、会社員の“永遠の課題”なのかもしれない。そんな上司と部下の人間関係に悩む人が、絶好のアドバイスを得られるのが『92歳総務課長の教え』(ダイヤモンド社)だ。著者の玉置泰子さんは、「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録に認定され、今もなおフルタイム勤務をして、記録を更新し続けている。今回の記事では、「上司・部下がよい関係を築くための作法」について聞いた。(取材・構成/久保佳那)

信頼されてこそ上司である

―「上司・先輩は耳ではなく、部下の話をハートで聞いてあげる」という言葉が印象的でした。玉置さんがハートで聞くために、心がけていらっしゃることを教えてください。

玉置泰子(以下、玉置):うちの会社は3代続くファミリー企業なんです。社員は450人くらいいますが、上司や部下という上下関係を前提に会話する人は一人もいないんですよね。何か話しかけたいときは、お互いに肩をたたきながら話すような雰囲気なので、自然とハートで聞いているかもしれないです。

―アットホームな雰囲気の職場なんですね。

玉置:上司の心構えでいえば、「信頼されてこそ上司」だと私は思います。私が信頼していた上司は、気持ちが温かくて心の広い人でした。そんな上司なら、部下も信頼感をもちますよね。

まず上司がやるべきことは、コミュニケーションがとりやすい雰囲気をつくること。「いざというときに話をしたら、ちゃんと相談に乗ってくれる」という部下の安心感が、組織には必要です。部下の考えや悩みを上司が知らないと、部下が活躍できる環境づくりはできません。

組織で仕事をするときには、皆さんもご存じの「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」も大事なコミュニケーションです。そこで、上司や先輩に大事にしてほしいのは、「ほうれんそうに、ちゃんとお返しをする」ことです。

上司の皆さん、「ほうれんそうのお返し」していますか?

―「ほうれんそうのお返し」、ですか?

玉置:ほうれんそうは、基本的に部下が上司に報告するというイメージですが、報告された上司は、ほうれんそうを受けた結果や成果を、部下に知らせる必要があると思うんです。

部下からすると、報告したことがその後どうなっているかわからないと不安になりますし、良かったのか悪かったのかもわからないと気になりますよね。お返しがないと、ほうれんそうは一方通行のコミュニケーションになってしまうんです。ほうれんそうのお返しがあれば、部下も上司に対してコミュニケーションが取りやすくなります。

―ほうれんそうのお返しをしてくれる上司は、部下から信頼感をもたれそうですね、部下のモチベーションも上がりそうです。

玉置:部下を伸ばすときのポイントは、得意なことに注目して、不得意なことにはフタをすることです。不得意なことを伸ばすのには時間も労力もかかりますし、成果が出ないこともあります。しかし、部下本人が好きで得意なことなら、自信をもってチャレンジできるので、成果が出やすいですよね。

私も初めて課長になった40歳の頃は、チームの司令官になって、指示通りに課員を動かす強いリーダーシップを持たなければと考えたときもありました。でも、部下とうまくコミュニケーションがとれなかったときに、「課長としてやるべきなのは一人ひとりが活躍できるようにすることなんだ」と気づいたんです。

―自分の得意なことを見つけてもらえると、部下も成長していけそうです。逆に、部下の立場で心がけるとよいことはありますか?

玉置:部下の人は「まず自分の仕事を全うして、責任を果たすこと」が大事。その前提があるのとないのとでは大違いです。仕事をちゃんと全うしていたら、上司はいくらでも話をき、相談に乗ってくれると思います。

私は若手の人たちに「自分の仕事をせずに文句だけを言うのではなく、まずは職責を果たそうね」と話すことがあります。

―上司は部下に信頼されるためのコミュニケーション、部下は信頼されるために仕事に責任をもって取り組むことが大事ということですね。

その仕事は、誰かの役に立っているのか?

―最近、会社のビジョンを共有する「ビジョン経営」をする会社が増えています。サンコーインダストリーにも、会社全体で共有しているビジョンがあるんですよね?

玉置:うちの会社のビジョンは、「お客様のために働く」というものです。歴代3人いるトップの口癖は、「その仕事は、誰かの役に立っているのか?」でした。こうした考えをもとに、仕事はお客様の利益のためにあることを忘れないように仕事をしています。

その考えは、時間をかけて自分に刻まれていき、いつしか「お客様の役に立つことが、自分が仕事をしていく上で本当に大切なことだ」と心から思うようになりました。

ちなみに、ここでいう「お客様」は取引先企業だけを指すわけではないんですよ。会長の言葉を借りれば、「自分以外はすべてお客様なんだ。上司や同僚もお客様だという気持ちで接していれば、周囲の人の役に立ちたいと思う気持ちが生まれるし、結果的にいい仕事ができる」ということです。

自分と会社の価値観が一致するということ

―自分以外の誰かのためにと考えると、独りよがりの仕事にならないですよね。会社の価値観と、玉置さんの価値観が非常に重なっている印象があります。

玉置:私が長いこと勤められているのは、会社との価値観の一致があるからなんです。私の考えと会社の方向性が一緒なので、迷うことなく働いてきたんでしょうね。

ご著書にあった「引き受けた仕事に対しては、1人ひとりが主人公。主人公になれば甘えやミスは起きにくくなる」という言葉に、背筋が伸びる想いでした。

玉置:仕事は依頼された時点で、上司の仕事ではなく自分の仕事です。他人事だと思わずに自分の大切な仕事だと思って取り組むと、自分ならではのアイデアもわいてきます。注意点としては、主人公といっても「自分勝手にやっていい」という意味ではなく、責任を感じながら仕事を進めることが大事です。

―玉置さんの仕事への考え方に高いプロ意識を感じます。いつ頃からその境地に達したのでしょうか?

玉置:年齢でいえば30代でしょうか。働き始めてから最初の10年くらいは、普通の事務員だったと思います。好奇心は強かったので仕事の改善に取り組んでいましたが、そこまでモチベーション高く働いていたわけではなかったです。

変化のキッカケになったのは、二代目社長であり、現会長の奥山泰弘が入社したことでした。商品アイテムを増やし、経営を意欲的に学ぶ前向きでシンボリックな人で、私たち社員にもさまざまな話をしてくれました。会長に感化されて、私の仕事に対する意識は変わったんだと思います。

誰かの役に立つという充実感

―職業人としての玉置さんに大きな影響を与えた方なんですね。

玉置:会長が進めていた仕事に参加する機会が多かったですからね。今回、私は皆さんのおかげで著書を出版させてもらいました。本を読んだ会長は、「私が話していたことばかりだな」と言っていました(笑)

―そうなんですね(笑)

玉置:92歳になった今でも現役で働かせてもらい、自分の仕事が誰かの役に立っていると思えることが、日々の充実感につながっています。

本記事は『92歳 総務課長の教え』(ダイヤモンド社)の著者・玉置泰子さんのインタビューです。珠玉の言葉でアナタが変わる本書をぜひチェックしてみてください。

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