入社してすぐに辞めようと思った会社に<br />66年勤めているワケ

「自分は何歳まで働くのか」「元気に働き続けるためにはどうしたらよいか」――人生100年時代と言われる今、漠然と将来に不安を抱いている人は多い。
そんな人が参考にするべきは『92歳総務課長の教え』(ダイヤモンド社)だ。著者の玉置泰子さんは「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録に認定され、今もなおフルタイム勤務で、記録を更新し続けている。仕事を長く続けたい人にとって、玉置さんが長年働き続けてきた理由を知ることは、“大いなる気づき”を得られる。今回の記事では、「92歳までフルタイムで働き続けられた原動力」について聞いた。(取材・構成/久保佳那)

誰かの役に立ちたい、喜ばせたい

―玉置さんのように、元気で長く働きたいと思う方は多いと思います。ご自身では、92歳まで働いてこられたのはなぜだと思いますか?

玉置泰子(以下、玉置):サンコーインダストリーという会社の、大きなゆりかごの中にいられたからでしょうね。60歳になったら辞めなくてはいけない会社も世の中にはあります。会社に育ててもらい養っていただいたことが、今日まで続けられた一番の理由です。

―長く続けてこられた理由として、健康である、仕事が好きなどのお答えが返ってくるかと思っていました。玉置さんが会社を大事に思っていることが伝わってきます。

玉置:私自身がいくら前向きに仕事を頑張ったとしても、会社が存続しなければ仕事を続けていくことはできませんからね。うちの会社も創業間もないときに、何度か経営的な試練がありました。そのとき、創業者だった一代目の社長が、会社は決して潰してはあかんという気持ちで踏ん張ったそうです。社員と家族、お客様と取引先を大切にする方でした。

―そうなのですね。玉置さんは15歳から働かれてきたんですよね?

玉置:父が56歳の若さで亡くなりましてね。当時、私は15歳でした。下には12歳の妹、8歳と5歳の弟がいて、母はお嬢様育ちだったものですから、「私が父の代わりに一家の大黒柱になって、家を支えなくちゃ」と思ったんです。その当時は、何かを夢見ることもなく働いていたと思います。

今の会社でさまざまな取り組みに参加していく中で、次第に誰かの役に立ちたい、誰かを喜ばせたいと思うようになりました。その想いが私の働く原動力でもあり、生きがいにもなっています。

勤続66年、入社してすぐに辞めようと思っていた

―今の会社で働く原動力を見つけたんですね。勤続は66年になったと聞きました。

玉置:入社当時はこんなに長く働くとは思っていなかったですね。なにしろ、入社してすぐ辞めたいと思っていたくらいですから。当時、サンコーインダストリーは社員数10名ほどの小さな会社でした。総務部員として入社しましたが、社員が少なかったので、さまざまな仕事をしなくてはならない状況だったんです。社員寮で住み込みの職員の食事を作ったこともあるくらい。

サンコーインダストリーの前に働いていた会社は、立派なビルにオフィスがあり、比較していました。「ここでの仕事は、自分のやりたい仕事ではないかもしれない…」と悩んで出社するのがイヤになり、1週間ほど休んでしまったんです。

すると、私を会社に紹介してくれた従姉妹から電話があり、すごく叱られました。「仕事らしい仕事もしないで、何を言っているの? まずはちゃんと仕事をしてから文句を言いなさい」と。

そこで目が覚めたんですよね。自分はいったい何を悩んでいたんだろうと思いました。会社の場所や規模に捉われるばかりで、「本当に仕事に向き合ってきたのか?」と自分に問い直しました。そこから気持ちを入れ替えて、仕事に取り組むようになったんですよ。

―もし、そのときに今の会社を辞めていたら、今とは全然違う玉置さんがいたかもしれないですね。

玉置:そうですね。当時は浮き草みたいにふわふわした性格でしたから、何をしていたのやら(笑)

60歳からの再出発

―玉置さんは92歳の現在も働いていらっしゃいますが、サンコーインダストリーさんの定年はいつなんですか?

玉置:60歳で定年になり、その後は親会社のサンコーホールディングスに移籍して、サンコーインダストリーに出向扱いとなります。その時点で、働く側は気持ちを切り替えられます。自分が任されていた仕事を若い方に譲り、一線を引いたうえで60歳から再出発する。

そして、積んできたキャリアを活かして、いかに会社に貢献できるかを考える。これが定年後に働く者の考え方なんです。定年せずにそのまま働き続けていると、若い方に仕事やポジションを譲るタイミングがなくなってしまいますから。

―60歳で一度働き方のスイッチを切り替えて、続けてこられたんですね。定年などのタイミングで、仕事を辞めようと考えたことはありましたか?

玉置:60歳で辞めることは考えなかったですね。入社したばかりの頃を除いては、辞めようと思ったことは一度もないです。今も仕事の余裕があるときは、来年の会社の行事や業務を書き出して、計画を立てていたりします。

会社があるから能力を発揮できる

―玉置さんは、幅広い年齢層の方と働かれていると思います。会社に限らず、若い人と年配の方が年齢層を超えて、こんな情報や考え方を共有できたらいいのにと思うことはありますか?

玉置:ITがどんどん進んでいきますでしょ。年配の方はどうしてもついていけないですよね。私も教えてほしいなと思うことがあります。若い人は、「知らないから」と置いてきぼりにせずに、年配の人に教えてあげてほしいですね。

会社の若い人が「会社のために働くなんて」とぼやくことがありますが、「会社のために働くことは結果的に自分のためにもなるんだよ。会社がなくなってしまったら、どれだけ頑張っても何もできないんだから」と伝えています。

会社があるからこそ、自分の能力を発揮できる場があるし、お給料ももらえます。「会社のことを頭から外しちゃだめよ」とも伝えていますね。私が92歳まで働けているのも会社があってのことですから。

92歳の今でも、昨日より今日の自分が成長している

―玉置さんがおっしゃると、非常に重みを感じます! 仕事でモットーとされていることはありますか?

玉置:私は「今日は、未来のためのゼロスタート」だと考えています。どんな失敗も成功もすべては過去に起きたことなんです。昨日失敗したことがあるからといって、今日からも失敗するわけではないですよね。過ぎてしまった時間を戻すことはできないので、失敗したら早くリセットして、前を向くのがいいです。

目の前にある仕事は、いつでもゼロからスタートする仕事です。昨日の仕事の続きであっても、今日する仕事はゼロからからのスタート。そう思えば、いつでもしゃんとした気持ちで仕事に取り組めます。

―いつでも新鮮な気持ちで毎日を迎えられそうですね…! たとえば、今できないことがあっても、これから学んでいけばいい。そんな風にも考えられます。

玉置:ゼロスタートの考え方は、成功に甘んじないためにも大切なんです。ゼロスタートだと思えば、過去に成功したとしても必要以上に驕ることもありません。一度リセットして新鮮な気持ちで仕事に向かっていくことで、今のような変化の激しい時代にもついていけると思うんです。

私は92歳の今でも、昨日より今日の自分が成長していると思えているので、働き続けられています。

本記事は『92歳 総務課長の教え』(ダイヤモンド社)の著者・玉置泰子さんのインタビューです。珠玉の言葉でアナタが変わる本書をぜひチェックしてみてください。

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