「自分は何歳まで働くのか」「元気に働き続けるためにはどうしたらよいのか」――人生100年時代と言われる今、漠然と将来に不安を抱いている人は多い。
そんな人が参考にするべきは『92歳総務課長の教え』(ダイヤモンド社)だ。著者の玉置泰子さんは92歳、「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録に認定され、現在もフルタイム勤務を続けている。本書では、玉置さんの卓越した仕事観・仕事術、上司・部下の作法が綴られている。世の中の変化にどう対応し、働き続けてきたのか。今回の記事では、「年齢を重ねても、新たなことに取り組み続けるポイント」について聞いた。(取材・構成/久保佳那)
ギネス世界記録の認定はサプライズだった
―玉置さんのことを知って、92歳というご年齢で、フルタイムの会社員として働いていらっしゃることに非常に驚きました。今はどんな仕事をされているのですか?
玉置泰子(以下、玉置):私が働いているのは、大阪市西区にある「サンコーインダストリー株式会社」というねじの専門商社です。総務部長付課長をしていて、経理事務やTQC(品質管理)活動事務局の運営を担当しています。今年で勤続66年になりました。平日の午前9時半から午後5時半まで、今もフルタイムで働いています。
―どんな経緯で、ギネス世界記録に認定されたのでしょうか?
玉置:総務係長から「課長の年齢で働いている人は少ないから、ギネス世界記録に申請してみたらどうですか?」と勧められたんです。申請書類に必要な情報は係長が書き込んでくれました。申請はしてみたものの、まさか認定されるとは思っていませんでした。
申請から少し時間がたっても、何の音沙汰もなかったんです。係長からも「きっと、だめだったんでしょうね。そう思っておいてくださいね」と言われていてので、そのまますっかり忘れていたんです。
するとある日、急に係長から「課長すみません、制服に着替えて来てください」と言われたんですよね。行ってみたら、たくさんの報道陣がいらしていて、最初は会社の新商品が話題になったのかなと思っていました。すると、「課長の写真を撮ります」と言われて、自分がギネス世界記録に認定されたことがわかったんですよ。
―サプライズの認定会見だったんですね!
玉置:実は、係長は事前に知っていて、私を驚かせようとして黙っていたようなんです。
まず原理原則を知ることが大切
―会社にパソコンが導入されたとき、玉置さんは51歳だったそうですね。「こんなにいいものはない!」と思って、毎日ワクワクしながら働かれていたというエピソードにも驚きました。「パソコンは若い人に任せよう」と思ってもおかしくない年齢だと思ったからです。
玉置:うちの会社にパソコンが導入されたのは1981年のことでした。現会長の奥山泰弘が二代目の社長だった頃です。現会長が情報工学の先生と親しくなり、私が担当していた経理事務や在庫管理は電子化に向いていると知ったことで、パソコンの導入を考えたそうです。
情報工学を6年も学び、うちの会社の場合、どのように導入するべきかをしっかりと考えてくれました。私たちも社員も、パソコン導入の前に、パソコンは何に使うもので、どう役立つかを情報工学の先生に教えてもらいました。
その中で、「パソコンを利用すると、手書きの台帳を運用することで起きていた転記や合算のミスが減る」と教えてもらい、「こんなにいいものはない!」と興味を抱いたんです。こんなふうに、まったく新しいことを知るときは、まず原理原則を知ることが大事だと思っています。
―新たなことを学ぶのに抵抗感がある人は、どのように役立つか、どんな仕組みかの原理原則を理解すると苦手意識がなくなるかもしれないですね。
玉置:そうですね。私はわからないことがあるときは、まず詳しい人や専門の人に聞きます。でも、自分で調べるのも好きなので、手元にはいつもなにかしらの入門書を置いているんです。
入門書でわからないときは、インターネットで質問してみたりして、いよいよわからなくなったら、まわりの社員に「助けて~」と頼ったりしています。70歳くらいの年下の社員とも普段からコミュニケーションを取っているから、気軽に相談できます。
92歳、エクセルやパワポも使いこなす
―入門書を読まれるんですね。年齢を重ねると新しいことへの苦手意識が出てくることもあると思います。なぜ、玉置さんは新たなものを積極的に取り入れられるのでしょうか?
玉置:私はもともと好奇心が旺盛なので、見ているだけ、聞いているだけでは気が収まらないんです。年齢を重ねても、新しいものに触れてみたい、自分でやってみたいタイプなんですよね。
パソコン導入当時は、ほかの社員もパソコンを使ったことがなく、みんながゼロからのスタートだったので、同じ船に乗っている安心感もありました。
導入したパソコンをつくっているメーカーのSEさんの言っていた言葉が今でも印象に残っています。「コンピュータは便利だけど、ゴミを入れてしまったらゴミしか出ません。正確なデータを入れておくから、正確な答えを出せるんですよ」って。
―正確なデータを入れなければ! という意識になりそうですね。原理原則を知っておくことが大切という意味がわかります。
玉置:今の会社で働いて66年経ちましたから、環境はどんどん変わっていきましたよね。例えば、入社したときに使っていたそろばんが電卓になり、電卓がワープロやパソコンになっていきました。パソコンに慣れたと思ったら、データを管理したり、資料を作成したりするにはエクセルやパワーポイントも使いこなす必要があり、学んできました。
―そろばんからパソコンに至るまでの変化を知って、現役で働いている方は、なかなかいらっしゃらないですね…! 玉置さんの歴史を感じます。
玉置:今後も、新しいハードやソフトが導入されたときは、「ようわからんけど、まずはやってみよう」という気持ちで取り組みます。長く働くうえでは、変化を楽しみながら対応していくことが大切なんです。
仕事をする上で大事にしているのは、誰かのようになりたいと思わず、自分だからできることに取り組むこと。他の人が得意なことを自分もできるようになりたいと思っても難しいですし、なかなか到達できません。自分の得意なことを磨いて仕事をしていくほうが、モチベーションを高くして向かえますよね。
自分の「得意」を客観的に見つけてもらう
―玉置さんは、どのようなことを得意とされているのですか?
玉置:みんながしんどいと思うような、継続的な仕事が得意です。担当している経理事務の仕事だったり、たくさんの数字を見て分析したりする仕事が好きなんですよ。仕事のスタイルは、スピードが速いテキパキ型というより、着実に進めていくコツコツ型ですね。
なんでもかんでも手を出して仕事すると、仕事は頼まれるかもしれないけど中途半端になってしまうんです。なにかひとつ決めて得意なことを伸ばしていくと「自分はプロフェッショナルだ」という自信をもてます。そして、「この仕事はあの人に任せよう」という周囲からの信頼感も生まれてくるように思うんです。
―若手の方など、自分の得意なことがまだわからない人もいると思います。どのように、自分の得意なことを見つけていったらよいのでしょうか?
玉置:ひとつのスキルや分野に突き進む人ばかりでなく、幅広い仕事を平均的にするのが得意な人もいます。全員がプロフェッショナルである必要もないので、マルチに仕事するのもいいと思うんです。それぞれが自分の得意な部分を伸ばしていくといいですよね。
いろいろな人がいてこそ組織なので、自分が他の人よりちょっと得意なことを見つけて伸ばしていく。自分の得意なことは意外とわからないので、上司や同僚など周囲の人に見つけてもらうのもいいと思います。