20代・30代の転職で
経営陣に食い込むスキルが身に付く

 実は、これからの社会を生き抜くには、20代のうちに転職耐性を身に付けておくことが重要です。

 ずっと生え抜きで勤めてきた会社が、急にリストラを計画したとしましょう。40代後半になってから人生最初の転職をする場合、転職耐性が必要となる“ブルーになる期間”を40代で初めて経験をすることになります。40~50代のサラリーマンにはつらいことなのです。

 もうひとつ、若いうちに転職を経験することで転職耐性だけではなく転職能力を獲得することができます。これは50代で経営陣に食い込むうえで、実は必須の能力かもしれません。

 私がよく知っているある経営者の方から聞いた話です。

 その方はずっと管理畑が長かったため、経営者に登用される直前に一度、事業部長として能力を発揮できるかどうかを試されたことがあります。

 その人はその試練を周囲には試練とも感じさせずに、見事に事業部をマネジメントして成長軌道に乗せました。その一部始終を見て私は、「いったいどうやってそんな能力を身に付けたのですか?」と質問したのです。

 そこで返ってきた答えが面白かったのですが、「それは私が小学校のころから転校生だったからだと思います」というのです。

 親が銀行員だと子どもはそういう経験をすることが多いと思いますが、数年ごとに新しい学校に送り込まれ、ある意味、敵対的な意識や好奇の視線にさらされながら、新しいクラスに溶け込まなければならない。「そのためにはスキルが必要なんですよ」と、その方は言うのです。

 これは実は日本のビジネスパーソンにとって、プロ経営者として転職する際に必要不可欠な転職能力かもしれません。

転職耐性と転職能力の有無が
命運を分ける未来が来る

 経営思想、仕事のやり方、組織風土がすべて異なる中、単身でその会社に乗り込み、短期間で上司から部下に至るまで人心を掌握し、たとえ敵がいてもそれに対抗できる味方の戦力を確保する。

 その能力に優れていないと、特に日本企業ではプロ経営者でも十分な活躍ができません。日本企業は権限よりも人間によるシステムで動いているからです。

 そう考えると、新卒で入社してずっと生え抜きで頑張っていくという選択は、たとえ良い環境の会社で働けているのだとしても、変化の激しい令和の時代のビジネスパーソンの選択としては三つのデメリットを抱えているかもしれません。

 一度くらいは転校(!)して、新しい仲間を作るところからスキルを鍛えた方が、将来、会社や部門がどこかに売却されたときでも、生き残る力を獲得できるかもしれません。

 そして日本経済が、人材が流動化できていないというデメリットを克服して発展するためには、転職耐性が高く転職能力に優れたビジネスパーソンの数が増え、40代になってもプロ経営者が転職して力を発揮できる未来がそろそろ到来したほうがよいのかもしれません。

 今回は、現時点としては転職市場が大きくなってきたとはいえ、まだ日本の転職事情は発展途上だという話でした。

 一人ひとりの転職は慎重かつ大胆に!