倦怠感はアセチルコリン不足で起きる

 発見したタンパク質をマウスの鼻腔(びくう)内に投与することで、コロナ後遺症の症状を持つモデルマウスの作成に成功した近藤教授らは次に、モデルマウスの脳を調べてみた。

「当該のタンパク質を投与したマウスでは、嗅覚障害の原因となるアポトーシス(個体をより良い状態に保つために、細胞が自殺的に死んでいく現象のこと)の増加や、倦怠感・うつ症状の原因となる脳の炎症が見られることが分かりました」

 そしてここからが大事なポイントだ。

「さらに調べると、アセチルコリンという神経伝達物質を産生する細胞が減っており、脳全体のアセチルコリンの量も減少していました。アセチルコリンには、炎症を止める作用があります。つまり脳の炎症は、アセチルコリンが減ったために起きていたのです。

(1)嗅球のアポトーシスが起きる→(2)その影響でアセチルコリンの産生が減り、炎症を抑える作用が弱まる→(3)肺などで作られた炎症性サイトカインが脳にやって来た時に、炎症を抑える作用が十分に働かず、脳の炎症が起きる……という図式です」