後遺症はどんなメカニズムで起きるのか

 コロナ後遺症に関しては今のところ、発症のメカニズムは不明で治療法も確実なものはない。ただ、メカニズムについては、大きく分けて、以下の3種類の原因が有力視されている。

(1)脳内炎症による脳機能障害とその後遺症によるもの
(2)肺炎などによる組織障害とその後遺症によるもの
(3)自己免疫やウイルス再活性化などの免疫異常によるもの

 近藤教授らは(1)の脳内炎症に目を付けた。

「倦怠感や『ブレインフォグ(思考力や集中力が低下する症状の総称。頭痛や睡眠障害も含める場合がある)』は非常に頻度が高く、日本だけでなく外国でも問題になっているのですが、これらの症状には、脳の炎症が関わっていることが分かっています。ウイルス感染症によって脳に炎症が起きたとなると、ウイルスが脳で増えているからだろうと思うかもしれません。しかし、新型コロナウイルスは脳では増えていない、という点がポイントです。我々は、その理由を調べることが、後遺症のメカニズム解明のカギになると考えました」(近藤教授、以下同)

 ウイルスによる脳の炎症には「脳炎」と「脳症」がある。脳炎は中でウイルスが増えることによって起こるもの、脳症は、原因がよく分かっていないものが多い。たとえばインフルエンザ脳症も、脳に炎症が起きているにもかかわらず、コロナ同様、脳でウイルスは増えないことから「脳症」と呼ばれている。

「そこで我々はまず、コロナ後遺症の脳症がどんなメカニズムで起こるのかを研究しました。ヒントになったのは、うつ病を発症させるヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の SITH-1(シスワン)*遺伝子です。コロナ後遺症では、嗅覚系が障害されて、うつ症状が出るのですが、HHV-6のSITH-1でも似たようなことが起こる。そこで、HHV-6と似たタンパク質が新型コロナウイルスの中にもあるのではないかと考えて調べた結果、該当するタンパク質を発見することができました」

*近藤教授らは、この遺伝子がストレスレジリエンス(ストレスを跳ね返す力)を低下させることで、うつ病を発症させることを見いだした。