「数合わせ」を引きずっていると壊滅

 日本の軍隊でまん延していた「員数主義」は戦後、日本企業に受け継がれた。当たり前だ。日本の戦後復興をした人たちは100%、戦時教育を受けた人で、大企業なども軍隊経験者が多く入ったからだ。

 そういう「員数主義」の洗礼を受けた人たちが、管理職となり社長となり、戦後世代に「ビジネスとは何か」ということを手取り足取り教え込んだのである。日本企業が今も「員数主義」なのは当然だ。

 下級将校として終戦を経験した山本氏は、「員数主義」という「病」こそが、日本軍という組織が機能しなかった元凶だと考えていた。

「戦後、収容所で、日本軍壊滅の元凶は何かと問われれば、殆どすべての人が異口同音にあげたのがこの『員数主義』であった。そしてこの病は、文字通りに『上は大本営より下は一兵卒に至るまで』を、徹底的にむしばんでいた。もちろん私も、むしばまれていた一人である」

 不正や不祥事で壊滅した組織の内情も見た経験のある筆者も、山本氏の考えに非常に共感する。社長から現場の社員まで組織内の「数字合わせ」という論理に取りつかれている企業は、ほぼ例外なくモラルが壊れる。日本軍のように、外部の声を無視して、独善的な暴走をしてしまうのだ。

 もちろん、山本氏の主張に納得できない人も多いだろう。日本軍が壊滅したのは、「員数主義」だけが悪いわけではないという専門家の分析もあるのではないか。

 しかし、世界の戦史を見ても、戦闘以外の死亡、食糧不足による餓死などをここまで出した軍隊はかなり「異様」だ。民間人の死者をここまで出した国も珍しい。日本軍が冷静な現状分析ができていなかったのは動かしがたい事実であり、そこの根底には「員数主義」があったというのは、個人的には非常に共感できる。

 日本には「上げ底商法」なんてものは存在しない、という人もいるだろう。

 ただ、カナダ人の英語教師のように、おかしいと感じる人がいるのも事実だ。思い当たる節のあるような企業はぜひ自分たちが「員数主義」に陥っていないか、ちょっとだけ我が身を振り返ってみてはいかがだろうか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)