“被害者不在”で
スケールが縮小

 では有罪だった場合、どれくらいの量刑になるだろうか。裁判官が決める判断材料は(1)犯行の手口や態様、(2)動機、(3)計画性、(4)結果の重大性、(5)被害弁償の有無、(6)被害者や遺族の処罰感情(、7)被告人の性格、(8)被告人の態度や姿勢、(9)被告人の年齢や環境、(10)前科前歴の有無、(11)社会の処罰感情――などが挙げられる。

 詐欺罪は親告罪ではないものの、財産犯であるため被害届や刑事告訴で事件化するのが一般的だ。そして、最も重視されるのは(5)と(6)になるのが当然の成り行きだ。

 しかし今回、名目上とは言え“被害者”とされる金融機関には被害の実態がなく、前述のデスクによると、阿武町から口座凍結などを求められても後ろ向きだったとされる。当事者意識などまったくなく、言い方は悪いが、金融機関の対応がむしろ田口被告の犯行を手助けしたとも言える。

 そして何より、決済代行業者から阿武町に全額が返金され、実質的な被害は解消され、民事訴訟でも田口被告が阿武町に謝罪し、解決金約340万円を支払うことで和解が成立。結果的に“被害者不在の事件”になったわけだ。

(1)や(2)、(11)などは最悪だが、民事での和解や公判の謝罪などで(4)や(5)、(6)、(8)はクリアされた。公判の証人尋問で母親の謝罪は(9)で有利になるだろうし、(10)の前歴はなさそうだ。

 社会的に大きな騒動になったが、決済代行業者の返金で「刑事事件」としてはスケールが極めて小さくなったと言える。ちなみに同罪の罰則は「10年以下の懲役」で、罰金刑はない。決済代行業者が阿武町に全額を返済していなければ、求刑が4年6月どころではなかっただろうし、初犯であったとしても長期の実刑は不可避だったはずだ。

 検察側は(1)と(2)を重視し、4年6月の求刑は実刑を取りたい思惑だったとみられるが、前述のデスクは「有罪だったとしても執行猶予がつく可能性が高いのではないか」と指摘した。