DXコンサルティングで最初に受ける質問のほとんどは「何から始めればいいかわからない」ですが、私は「会社をどうしたいか明確にしましょう」「いちばん解決したい課題に手をつけましょう」と申し上げます。経営課題さえ見えていれば、DXは始められるからです。あとは課題解消に役立つものを調べたり開発会社に問い合わせをしたりすることで、解消の手がかりまで見えてきます。

 次によく聞かれるのが「DXを進められる人材がいない」で、これは社内で育てるか外部人材を活用するかの二択です。時間をかけてでも育成したいなら、研修やe-ラーニングもたくさんあるので、いくつか受けてみるといいでしょう。手っ取り早く始めるなら外部人材の活用がおすすめです。いくつかのコンサルタントや開発会社に経営課題を投げかけ、希望に沿った予算と期間でいいソリューションを出したところに依頼しましょう。これで、経営課題さえ見えていればDXは始められるし、うまくいくことがイメージできたのではないでしょうか。

 ほかに多いのは「経営者の理解がない」「現場が非協力」「何をしているかわからない」などですが、どれも三者へのインセンティブが設定できていれば防げるはずです。

主体的に進めるDXがもたらす変化とは

「インセンティブ」と「経営課題」を押さえてDXを推進すると、社内で少しずつ次のような議論が起きるようになっていきます。

「現場が変化するためのDXとは何か?」

「小さくても継続的に変化していく組織とは?」

「本当にためになるツールは?」

 経営者、あるいはDX推進担当に「やらされていたDX」が「自らが主体となるDX」になると、社内の意見交換が具体的でよい変化を伴った内容に洗練されていくのです。経営者が気づかなかった、あるいは推進担当が見落としていた会社の課題まで見えてくることもあります。

 それを続けた先に自然に起きるのが、各部署の役割の変化です。

 たとえば経理部なら、一般的には企業のお金に関わる請求書や見積書、経費精算などの処理がおもな仕事でした。それが、これまで時間を割かれていた入力などの繰り返し業務をデジタルが代行するようになると、手の空いた社員のなかから「交際費を何円以上かけたら営業の成約に繋がるか」「リモートワークの推奨で交通費が何円削減可能」など、経営に関わるデータを即時抽出し分析や提言を始めるようになっていきます。「お金を管理する経理部」が「お金のデータから経営に関わる指標を出す経理部」へと変容するのです。

 こうした変化は一部署にとどまりません。

 時間がかかるかもしれませんが、本質的には、すべての部署の仕事が再定義され変化していきます。労務部なら残業時間とパフォーマンスとの関係値を導き出し経営に活かすことを求められますし、営業部ならトップ営業部員の数字を分析し、全員の平均値を上げるための取り組みに使うこともできるようになるのです。