売れ続けるために
必要な「かわいげ」

 M-1という競技で苛烈な競争を勝ち抜いた実力者は、一夜にして「仕事ができるヤツ」として一目置かれるようになる。その一方で賞レースには縁遠くても、「人柄」で売れ続けている芸人もいる。

「24年ほど芸人さんの取材をしてきて、芸人さんが売れるために最も必要な要素。それが“かわいげ”だと思っています。芸能界は人が人を選ぶ仕事です。そして面白さというものはM-1のような大会でもない限り、なかなか数値化できません。そうなると仕事相手に『なんとなく、この人といると良い感じだな』『この人がいると空気が良くなるな』と感じさせることが大切になってきます。『またこの人と仕事をしたい』と相手に思わせる。その状況が長く続くことを『売れる』というわけです。もちろん、プロの世界なので腕は必要です。ただ、たくさんいる“そこそこ腕のある人”から抜け出す最大の要素が“かわいげ”だと僕は確信しています」

 この「かわいげ」を発揮して、近年大活躍しているのが「千鳥」の二人だろう。前述のM-1大会において、千鳥は2年連続で決勝最下位という惨敗を喫している。にもかかわらず、いまや彼らをテレビで見ない日はない。

「千鳥のお二人を評すなら、まさに“規格外のかわいげ”。最初から面白さが評価されていた大吾さん。周囲とコミュニケーションをとる役割を担っていたノブさん。ロケのうまさや独特のワードセンスが注目されて人気者になった2人ですが、ここに至るまでには多くの先輩のアドバイスやサポートがありました。なぜ先輩たちがそんなことをするのか。それがかわいげのなせる業。志村けんさんが大悟さんをかわいがっていたというところにも真理が垣間見えていると思います。」

 M-1優勝芸人のように「腕が良い」のか、それとも「人間性が良い」のか。もちろんどちらも兼ね備えることが一番だが、業界で長く愛されることを考えるのであれば「人間性」という要素は切り離せないという。

「腕があって人間性もいい。こんな芸人さんは確実に売れます。腕もないし、人間性も良くない。こんな芸人さんは売れません。では腕はあるが人間性は良くない、腕はそうでもないが人間性は良い、この場合、どちらが売れるのか。僕の中の結論は明確で、人間性が良い人の方が確実に売れやすいです」

 周囲が放っておけないようなかわいげはもちろん、どんな相手にも態度や姿勢を変えない誠実さや気遣い、目の前の仕事に取り組む熱意。人間性、というのは多くの要素で成り立っている。「お笑い怪獣」と言われて長年お笑い界を牽引(けんいん)し続ける明石家さんまさんですら、裏では気遣いの人だということを度々関係者に暴露されている。

「2022年春からABCテレビ『新婚さんいらっしゃい!』の司会をされている藤井隆さん。桂文枝さんの後任として名前が挙がった2月頃から取材の打診をしていたんですが、なかなか話がまとまらない。おかしいなと思っていたんですが、5月に入って取材OKをもらって、その謎が解けました。新たに『新婚さんいらっしゃい!』の司会という大役を務めることになった藤井さんのもとには、当然多くのオファーがあった。でも、藤井さんの意思でそれらを断ったそうです。理由は、歴史ある番組にいきなり来た人間が、番組を語るなんておこがましいと。実際に収録をして、ある程度認知していただかないと意気込みすら発するのは気持ち悪い、そんな思いからのことだと聞きましたし、そういった一つ一つの行動に人間性が表れるものだと改めて痛感しました」

 番組、そして50年以上にわたって看板を背負ってきた桂文枝さんへの配慮を第一に、筋を通す。謙虚な人柄が伝わってくるエピソードだ。

 効率が上がる仕事術や、アイディアを磨く方法、他者を出し抜くテクニック、そういったビジネステクニックももちろん大切なことだが、「この人がいるとなんとなく空気が良くなるな」と思ってもらえる存在を目指すことは、どこでも通用する「売れる」秘訣と言えそうだ。