地銀の雄「ふくおかFG」が、中小企業のデジタル化コンサルに本腰を入れる訳

地方銀行大手のふくおかフィナンシャルグループが提供する「デジタル化支援コンサルティング」を利用する中小企業が増えている。取引先の業績向上と地域経済活性化は地銀にとって共通の課題。同グループは取引先のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するとともに、銀行のビジネスモデル変革も視野に入れている。(取材・文・撮影/田原 寛)

1年で400件超の支援が決定
デジタル化の緊急性を映す

 ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が、主に中小企業を対象として「デジタル化支援コンサルティング」を始めたのは、2019年のことだ。傘下の十八親和銀行が、地盤の長崎県で取引先に対する支援を開始した。その実績を踏まえて21年10月からは福岡銀行、熊本銀行を含むFFG3行がそろってデジタル化支援の取り組みをスタートさせた。

 現在は、3行合わせて40人余りがデジタル化支援の専任としてコンサルティング業務に従事している。21年10月〜22年9月の1年間に3行で974件の相談を受け付け、そのうち419件について実際に支援が確定した。わずか1年で400件を超える支援案件が決まったことからも、中小企業にとってデジタル化がいかに喫緊の課題となっているかがうかがえる。

 FFGと福岡銀行の営業統括部部長を兼務し、グループのデジタル化支援コンサルティングを指揮する河﨑幸徳氏は、この取り組みの狙いについて次のように語る。

 「中小企業の労働生産性は大企業に比べて約4割の水準にとどまっていますが、その大きな要因はデジタル技術を経営に生かせていないことにあると考えられます。一方、中小企業の7割以上は地方金融機関がメインバンクとなっており、地方における中小企業のデジタル化支援は、まさに私たちが担うべき役割だといえます」

 中小企業がITやデジタル化への投資をためらう理由としては、「社内にIT・デジタル人材が足りない」「身近な相談相手がいない」「どんなツールを選べばいいのか分からない」といった答えが各種調査で上位に挙がっている。その点、普段から接する機会が多い地銀が相談に乗ってくれるなら心強いところだが、残念ながら銀行業界全体を見渡してもIT・デジタルに詳しい人材が多いわけではない。

 FFGの場合、デジタル化支援コンサルティングに従事する行員には原則として全員に「ITコーディネータ」の資格を取得させている。ITコーディネータは経済産業省推進資格で、試験の合格とケース研修の修了の双方を経て認定される。3年ごとのフォローアップ研修もあり、経営知識とIT知識を融合して経営者を支援するプロフェッショナル資格と位置付けられている。つまり、ツールありきではなく、経営課題ありきで経営者の相談に乗り、課題を解決するために「経営とIT・デジタル技術をつなぐ」のが、その役割といえる。

 自身ITコーディネータの資格を持つFFG営業統括部デジタル営業グループ調査役の曽我周平氏は、「デジタル化支援に入るときには、まず経営者の悩みや課題をヒアリングします。当然客さまの課題は多岐にわたり、事業承継や新たな工場建設などに話が及ぶこともあります。業界事情や特有の専門知識を含めて、常に学び続けなければなりません」と意欲的に語る。

 FFGのデジタル化支援コンサルティングは、以下のような流れで進む。

 支援内容は、現状分析から計画策定までを行う「プランニング」フェーズと、IT・デジタルツールの導入・実装をサポートする「実行支援」フェーズで構成される。経営者と課題を共有し、その解決のために最適なツールやサービスを選定した上で、実際の導入・運用をサポートして、業務での定着を図るまで伴走するのが基本スタンスだ。

クラウドサービスの利用を推奨

 デジタル化の成熟度は企業によって異なる。FFGでは、成熟度の低い順から「間接業務がシステム化されていない」1層、「業種別業務がシステム化されていない」2層、「デジタルを活用した付加価値創造を目指したい」3層の三つに大きく分類し、まずは1層の取引先から重点的に支援する方針とした。「経営資源が少ない中小企業の場合は、デジタルで付加価値を創造するといった理想形に一足飛びにはいけないので、1層から段階的にステップアップしていくことが大事」(河﨑氏)と考えるからだ。

 1層の企業に対しては、業種を問わず共通した間接業務である「情報共有」「勤怠管理・人事」「会計・経費精算」の三領域から、手作業による業務をシステム化する支援を行う。その際、大きな初期投資がかからず、毎月定額で利用できるクラウドサービスを勧めている。ITベンダーではないので、特定のサービスを推奨するわけではない。クラウドベンダーとは全方位で付き合い、支援先にとって最適なものを比較して選定し、導入・活用をサポートしている。「車を買うときと同じで、使途を明確にしてから候補を複数選定し、相見積もりを取って、比較してから決めていただいています」と、河﨑氏は付け加える。

 河﨑氏らがデジタル化支援コンサルティングを始めてみて意外だったのは、2層の取引先からの相談案件が多かったことだ。これには、オフィスコンピューター(オフコン)のサポート切れが影響している。

 1970〜90年代にかけては、オフコンが中小企業の情報化を支えてきた。受発注や営業・販売、在庫、生産、物流など基幹業務の管理システムをオフコン上で構築してきた中小企業は多い。しかし、90年代半ば以降に汎用OS(基本ソフト)で動くサーバーが普及し始めると、オフコンの生産やサポートから撤退するIT大手が続出、今やクラウドの時代となり、オフコンが分かる技術者は大幅に減っている。古いオフコン上で動いている基幹業務システムを汎用サーバーやクラウド上にどう移行すればいいのか、頭を抱えている中小企業は少なくないのだ。

 こうした基幹業務システムの再構築をサポートするには、業界・業種特有のドメイン知識が欠かせない。そこで、FFGでは2層の取引先を支援する際には、ドメイン知識や基幹業務システム構築の実績が豊富なITベンダーなどと協業している。現在10社ほどの提携先と定期的なミーティングの場を設け、協業関係を深めると同時に、2層支援者としてのノウハウを蓄積している。

 では、FFGが実際、どのようにデジタル化を支援しているのか。その具体例を紹介しよう。