中国・クルーズ船ビジネスの春

 大型クルーズ船に多くの中国人が好奇心と憧れを持ち始めた歴史はあまり長くない。

 2006年7月、イタリアのコスタクルーズの客船「コスタ・アレグラ」が上海に就航するまで、クルーズ旅行はほとんどの中国国民とは無縁の存在だった。それなのに、わずか半年余りで、「コスタ・アレグラ」を利用した中国人は1.8万人にもなった。

 それ以降、海外のクルーズ船会社が続々と中国に進出した。中国市場専用のクルーズ船まで登場させたほど、中国でクルーズ船ブームを巻き起こした。やがて、沿海部各地でクルーズ船母港の建設も相次いで始まった。コロナ禍が発生する前に、中国はすでに米国に次いで世界2位のクルーズ船旅行市場となったのだ。

 こうしたブームを目の当たりにした中国側はクルーズ船ビジネスに開眼し、その製造に動き出したというわけだ。

 中船集団は13年10月、国産クルーズ船プロジェクトを開始し、世界最大のクルーズ船運営会社である米・カーニバルグループを提携先に選んだ。15年10月には、中船集団、中国投資公司、カーニバル、イタリアのフィンカンティエーリ、英国のロイド船級協会、上海市宝山区政府が共同で「クルーズ産業6者協力共同宣言」を発表した。

 そして、2017年に中船集団は13.5万トンの大型クルーズ船の製造を、単価7.5億ドルで2隻受注し、クルーズ船製造事業に突入した。のちに、さらに4隻の製造が打診された。18年、上海で開催された第1回中国国際輸入博覧会において、中船集団はカーニバルなどと大型クルーズ船、計6隻の契約を正式に締結し、受注総額が45億ドルに達する大型ビジネスとなった。

 19年10月18日、中国初の大型クルーズ船、「H1508」が正式に着工し、実質的な製造段階に入った。

 これまでクルーズ船に無縁だった中国も、クルーズ船ビジネスの春を迎えはじめた。しかし、中国はクルーズ船運営にはまだ疎い。これからはおそらく、クルーズ船運営会社の買収に動き出すと思う。日本のクルーズ船運営会社はすでに打診されている。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)