異例の異動拒否で
支店長室はパニックに

 行き先が良ければ支店長は饒舌(じょうぜつ)だ。「自分が無理を言って人事部に頼み込んで行かせてやった」だの、「向こうではあの有名な××株式会社を担当できる」だの、「自分が若い頃いた支店だ」など。正直どうでも良いのだが…。

 一方、行き先が今ひとつの場合、言葉も少なくそそくさと、「じゃあ、引き継ぎのスケジュールは夕方、副支店長が向こうの支店と調整するから指示を聞いてくれ」と手短に支店長室を追い出される。実にわかりやすい。

 これは、今から20年も前の人事異動の風景だ。固い印鑑を押すのは旧行時代の決まりだったため、合併後はなくなった。だが、それ以外の事柄は特に変わっていないのが実情だ。

 だが、ある日、事件が起きた。

 私と同じ支店に4年間在籍し、後方事務を担当していた女子行員が、いつもと同じ異動セレモニーが行われる中、突然支店長に向かってこう言ったという。

「受けません。嫌です。印鑑を押さなかったら行かなくてもいいんですね?」

 無論、断った者を目撃したのは彼女が最初で最後。彼女は日頃から遅刻も多く、ミスをしても反省が見えない問題児だったため、異動は時間の問題だろうとうわさが絶えなかった。

 この女子行員の対応で、支店長室はパニックになったという。その後、彼女だけが退出し、課長には30分以上にわたり説教と怒号が飛ばされたと、課長本人から後日聞いた。結局、その女子行員は3日後に自主退職。あいさつもなくこの銀行を去った。