人事異動の発令後に
銀行マンが行なうべきこと

 異動を知った銀行マンは何をするのか。

 まず異動発令の日の夕方、赴任する先の支店長にあいさつの電話を入れる。次に副支店長、そして課長。課長からは具体的な担当内容や、細かい注意事項などを聞かされる。社宅のボス的な奥さんは誰かなど、知らなくてもいいようなことをペラペラしゃべるおせっかいな課長もいる。

 最後に総務担当の女子行員に電話。社員食堂の賄いさんや支店長車の運転手まで含めた、支店の在籍人数を聞く。あいさつ用のお菓子を用意するためだ。新任地に赴くときは、必ず手土産を持参する。こうした日本的な文化が、銀行には今も残っているのである 。

 大きな支店への異動であれば、お菓子の費用もバカにならない。誰が何のお菓子を持ってきたかなど、次の日には誰ひとり覚えてなどいないのだが…。しかし最近、この通過儀礼は不要と通達する部署が現われた。こうした風習におかしいと、ようやく言える組織になってきたのだとうれしく思う。

 それにしても、気の毒なのは妻と子どもだ。社宅は「お局さま」のような奥方が牛耳っている場合があり、面倒でならない。たいていお局さまのお宅で歓迎の茶会が開かれ、副支店長の奥さん、課長の奥さん、課長代理の奥さんなど、奥さん同士の序列へ加わることになる。

 妻が銀行で働いたことがあれば、そのような世界を理解できるかもしれないが、そうでなければ異常に感じるだろう。子どもが副支店長の子どもとけんかしてけがをさせたとか、おもちゃを壊したなどとあれば、地獄のような日々に違いない。

 人事異動はさまざまなドラマを産む。上司ガチャ、配属ガチャなどとよく言われるが、良い出会い、そうでない出会い、悲喜こもごもである。ただし、新天地に行けば自分を変えるチャンスであることに違いはない。やっとのことで作り上げた同僚・上司・お客との人間関係は、一から出直し。何をやってもうまくいかなかった人にとっては、ゼロクリア。全てを変える千載一遇のチャンスである。

 今でこそ自分から行きたい部署を逆指名できる公募制度ができたが、誰もが好転するとは限らない。新たな上司に翻弄(ほんろう)されるのがほとんどだ。