本当に難しいのは
お金を「減らす」こと

 実は、増やすことよりも「お金を減らすこと」の方が難しい。この理由はやや逆説的だが、「誰もお金を減らしたい」などと思っていないことにある。だから何とか減らすまいと努力するのだが、往々にして減らしたくないという気持ちで行動することが実は逆に損を大きくしているということはある。

 例えば、サンクコストなどはその典型だろう。何かの事業に対する投資を続けるか中止するかという判断をする場合、中止するとこれまで注ぎ込んだお金が無駄になるため続けるという判断に傾きがちだ。でも、そこで中止してもしなくても投下したお金は戻ってこない。

 大事なことはこれまで投下した資金を考えず、ここから注ぎ込むお金と得られる収益がどうなるかということを考えた上で判断すべきなのだが、人間はなかなかそういう判断ができない。

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 また、お金を使うことに対する抵抗感として最も大きいのは「老後不安」だ。これもある意味当然だろう。なぜなら、老後不安を持っている人のほとんどはまだ“老後”になっていない。人間は誰しも未経験のことには不安を持つからだ。

 本コラムで筆者は度々指摘しているが、老後不安を過剰に持つことは不要である。筆者も含めて公的年金だけで生活している人の割合は約半数である。むしろ老後不安をあおられて変な金融商品を買ってしまう方が、よほど老後生活のリスクは高くなる。

 さらにお金をどう使うかということになると、これはお金を増やすこと以上にその人の考え方や人生観によって大きく異なってくる。だからこそ、「お金の増やし方」よりも「お金の減らし方」、「使い方」は多様性に富み、考える部分が多くなってくるのだ。

 でも、人生で本当に大事なことは「お金持ちになること」ではなくて、「幸せな人生を送ること」にある。そのためにお金の使い方や減らし方を考えるのは、とても重要だ。筆者が「お金の賢い減らし方」という本を書いた理由もこのあたりにある。ちなみに「お金」「増やし方」をキーワードで検索すると600冊以上の本が出てくると言ったが、「お金の減らし方」で検索すると出てくるのは作家の森博嗣氏の本と私の本だけだ。

 お金を増やすことばかりに熱心になるだけではなく、どう有効に使うかということも考えてみる必要があるのではないだろうか。

(経済コラムニスト 大江英樹)