このような複雑化している状況に、経営環境からくる労務コストの削減要求が重くのしかかり、マネジャーのさばくべき責務が、とほうもなくややこしくなっている、というのがタナカくんの実感だといいます。

「だから、ミドル・マネジャーの負荷がめちゃめちゃ重くなっているわけです」

 大変です、と言いながら、それを楽しんでいるかのような素振りもあるのが、タナカくんが優秀なゆえん。これほどの複雑化した状況をふまえて、なお若手の成長を促していくのは、至難の業でしょう。

 「タナカさんはとてもよくしてくれますよ。チームの雰囲気がいいのは、みんなに任せるところを任せて、うまくフォローしてくれているからじゃないでしょうか」。このようにタナカくんを評するのは、彼のチームの最年少、昨年4月に入社したムライくんです。

組織の「温度調節」も
マネジャーの役割か

 「研修では目標設定、評価法、フィードバックが育成のポイントである、ということでしたが、それは妥当で実行しやすいステップだと思いますね」とタナカくんは言います。「もちろん、実際には大変ではあるんですが」

 育成の役割を担うのは、もちろんマネジャーだけではなく、先輩が後輩のフォローをして、それを束ねて全体をマネジメントするのがマネジャーたるタナカくんの役割です。

 ただし、タナカくんはひと言付け加えます。

 「これまでなら育成については組織内の暗黙知的なものがあったり、周囲のお兄さんお姉さんフォローが自然と発生したりということがありましたが、いまの複雑化した職場環境では、それらは意識して実行していかないと成立しないでしょう。会社としては、“だからミドル・マネジメントはがんばってね”ということになるのですが、それが今の管理職の厳しいところでしょうね」

 大学生のときから知っているタナカくんの、そんな「オトナびた物言い」に、思わず微苦笑が漏れますが、それはそれとして。

 職場が「擬似家族」的だった時代は過ぎ、雇用形態が複雑化するなかで、職場は「機能本位で業務を遂行する場」になっていきました。もちろん、会社は仕事をするところであることは間違いありませんが、あまりに機能的に、すなわち非人間化していけば、逆に非効率に陥るような気もします。