志賀俊之・元日産COO(以下、志賀氏) 業界の将来に対して、いくつか心配しているところがあるんですが、一番心配しているのは日本の自動車産業の行方ですね。私は、日本自動車工業会の会長をやった時に東日本大震災も経験したんですが、そこで実感したのは日本の自動車産業の強みはOEM(自動車メーカー)だけでなく、部品産業のティア1、2、3、4とあらゆる部品企業によるものということでした。現在、スタートアップを支援している立場でティア2、3クラスの社長さんたちと議論する機会が多いんですが、彼らから「これからどうなっていくんですか?EVシフト・EV化は本当に起きるんですか?」と聞かれるのが実態なんですね。

――確かに、内燃機関エンジン車からEVに置き変われば、部品点数が約3万点から2万点に3分の1に減るといわれています。関連部品企業は、その方向がよく見えないことで不安視しているんでしょうね。

志賀氏 そう、インフラ充電網が整備され、航続距離が上がりコストは下がって、EVの価値が認められるようになればお客様もEVが買えるようになるね、ということですが、EVシフトとは、製品のシフトというより産業のシフトということですから、産業転換が必要なんです。私が心配してるのは、本当にEVシフトが起きた際に、これだけ大きなピラミッド構造を抱える日本の自動車産業の構造転換が間に合いますか、ということで警鐘を鳴らしているんです。

――つまり、日本はエンジン部品を軸とした従来の自動車サプライチェーン(供給網)の産業構造転換を急ぐべきだと。

志賀氏 EVシフトが遅れれば、産業構造転換が遅れ、ひいては日本が世界から取り残されることになる。これをものすごく不安なこととして懸念しています。また、EVになると部品点数が減るといわれますが、そうでもない。自動運転やCASE対応で車は複雑になり、モジュール化の中でもこれに対応する新たな部品が出てくることにもなります。

――日本のモノづくりを管轄する経済産業省などはどう見てるんでしょうか。また、世界を見るとEVシフトで構造転換はどう動いているんですかね。