まず一つ目は、世界中の人たちがそこを目指してやってくるが、実は三つ星以上に安くておいしいお店がたくさんあるということを知ることだ。いわば三つ星が広報の役割を果たしている、ということになる。事実、私も初めてサンセバスチャンを訪れたのは7年前だったが、実際に三つ星よりも街のバルの方がおいしいことがわかった。恐らくそういう人は多いだろう。

 二つ目の役割は、地域の1次産業の振興である。三つ星レストランはそのほとんどが地元産の高級食材を使用している。当然、値段もかなり高い。ということは、地域の農家や漁師の人たちから最高の食材をかなり高い値段で仕入れているということになる。これは地元の生産者にとってはありがたい話で、いわば三つ星レストランが媒体となって世界中のお金持ちと地元生産者を結びつけている、と言っても良いだろう。

日本は本当の意味では
「おもてなしの国」ではないかもしれない

 実は日本だって地方には安くておいしいものがたくさんある。でも残念なことにその存在があまり知られていない。

 東京ではなく地方に三つ星レストランがあったら、きっと世界中のお金持ちがやって来て、そのレストランだけじゃなく、地元の食べ物の素晴らしさを知る人が増えることだろう。そういう意味では若い優秀なシェフにはぜひ東京を離れ、地方で活躍してほしいし、メディアもそういうお店をもっと紹介すべきだろうと思う。

 まだそれほど多くはないものの、そういった地方で素晴らしいレストランを目指して開業しているところも出始めてきている。そういう意味では、日本はまだまだこれから観光政策で考えていくべき点がたくさんあるような気がする。

 例えば東京オリンピック誘致の際に流行語となった「おもてなし」という言葉、我々は日本がおもてなしの国だと考えているが、もう少し深く考えてみると、本当にそうなのだろうか?という面が見えてくる。

 例えば観光地で宿に到着したとしよう。その時間がチェックインの前だとすると「まだチェックインできません」と言われる。まあ、それは仕方ないとして、それならラウンジでお茶でも飲んでいようかとすると「ラウンジは宿泊のお客様以外は利用できません」となる。

 それも満面の笑みで非常に言葉丁寧に、しかしビシッと断られる。海外の場合、多くは早く着いても部屋に入れてくれることが多い。丁寧な言葉ややわらかい応対が良いおもてなしなのかといえば、それはあまりにも表面的に過ぎるように思う。丁寧に断られるのと、普通の対応で当方の要望を入れてくれるのとどちらが良いか?と考えると、私なら後者の方が良い。

 食事の時間にしてもそうだ。日本の場合はよほどの高級旅館でない限り、食事の時間は「6時半と7時半の2回です」といった具合に選択肢があらかじめ決められている。ところが海外の場合は6時以降ならいつでも好きな時にどうぞ、というケースが多い。