シャルケ吉田麻也が欧州キャリアの正念場、クラブが「契約更新する条件」とはDean Mouhtaropoulos / スタッフ / Getty Images Sport

キャプテンとして日本代表を長く支えてきたDF吉田麻也が、クライマックスを迎えたブンデスリーガ1部で奮闘している。3月に船出した第2次森保ジャパンで選外になった34歳のベテランは、どのような思いを抱きながらドイツの地でプレーしているのか。所属するシャルケの1部残留に、ヨーロッパにおけるキャリアの継続をかける男の「いま」を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

中澤・闘莉王の「亡霊」を追いかけ
日本代表を引っ張ってきた吉田麻也

 会話の途中で「亡霊」なる二文字がおもむろに飛び出せば、聞いている側は間違いなく驚いてしまうだろう。こんな書き出しにしたのは、キャプテンとして日本代表を長く支えてきた34歳のベテラン、吉田麻也の言葉につい5カ月ほど前にびっくりさせられたからだ。

 舞台は森保ジャパンが快進撃を続けていた、ワールドカップの開催国カタールだった。

「中澤さんと闘莉王さんという亡霊を、ずっと追いかけているんですよ」

 クロアチア代表との決勝トーナメント1回戦を翌日に控えた昨年12月4日(現地時間)。森保一監督からキャプテンを託された2018年10月以来、メディアの取材に応じるときの主語が、ほとんどの場合で「日本は――」だった吉田にある質問が飛んだ。個人としていま、どのような思いを抱いているのか、と。

 少しだけ間を取ってから、吉田は胸中に秘めてきた思いをゆっくりと明かしはじめた。

「個人的には若いときからチャンスをもらって、長く試合に出させてもらっているなかで――」

シャルケ吉田麻也が欧州キャリアの正念場、クラブが「契約更新する条件」とは2022年に行われたFIFAワールドカップ・カタール大会で、練習中に笑顔を見せる吉田麻也(撮影:藤江直人)

 代表でのキャリアを振り返った直後。日本がワールドカップで2度目の決勝トーナメント進出を果たした10年の南アフリカ大会でセンターバックを組み、強さと高さを兼ね備えた守備で圧倒的な存在感を放った中澤佑二、そして田中マルクス闘莉王を「亡霊」と位置づけたうえで吉田は続けた。

「あの2人を超えたい、という思いがずっと頭の片隅にありました。選手にはクラブと代表とで二つのキャリアがあると思っていて、クラブでのキャリアは日本サッカー界が発展していけば、新しい選手がどんどん塗り替えていくはずなので過去と比べても仕方がない。

 一方で代表に関しては、何をしたのかがすごく大事になってくる。その意味で僕は中澤さん、闘莉王さんをまだ抜いていない。ワールドカップのベスト16の壁を破ったときに、初めてそこにたどり着けるのかな、と」

 吉田は11年1月にカタールで開催されたアジアカップから代表に定着した。そして、当時22歳の吉田と入れ替わるように、代表から遠ざかっていったのが中澤と闘莉王だった。直接争えないがゆえに「亡霊」と位置づけ、記憶に焼きつけられた、まぶしくて大きな背中を追いかけ続けてきた。