海運バブル終焉 手探りの船出#2Photo by Yu Umeno

空前のコンテナバブルの終焉を受け、海運2強の日本郵船と商船三井が次の一手として「脱・海運」戦略を加速している。日本郵船は物流事業を、商船三井は不動産などの非海運事業を育てる考えだ。両社が非海運に力を入れるのはなぜか。特集『海運バブル終焉 手探りの船出』(全7回)の#2では、両社が10年先に見据える海運業界の勢力図を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 梅野 悠)

日本郵船と商船三井が中計
両社の1兆円超の投資先は

 海運2強の日本郵船と商船三井が今年3月、中期経営計画を公表した。中計では、日本郵船が2030年に、商船三井が35年に向けたビジョンをそれぞれ示している。日本郵船の新中計策定は5年ぶりで、財務政策も含めた詳細な数値を盛り込んだのは初。商船三井の新中計も6年ぶりとなる。

 ここ数年、海運業界は空前のコンテナバブルに沸いた。新型コロナウイルス感染拡大による物流混乱に端を発した特需は、青息吐息だった海運業界を復活させた。両社に川崎汽船を加えた海運大手3社がたたき出した最終利益は、昨期までの2年連続で計2.5兆円規模となった。

 だが、コンテナバブルはすでに沈静化した(本特集#1『海運大手3社の合弁「日の丸コンテナ船」、バブル終焉で忍び寄るリスクの正体』参照)。両社の中計公表は、ポストバブルの新たな針路を示すタイミングとなったのだ。何より注目が集まったのが、異例のバブルで稼ぎ出した莫大なキャッシュの“使い道”である。

 両社は今回の中計に、共に1兆円を超える規模の投資計画を盛り込んでいる。海運業界では空前の規模の投資計画となる。では両社は、どのような投資を実行していくのか。

「物流事業をグループの成長エンジンにする」。3月に日本郵船が開いた中計の説明会で、当時CFO(最高財務責任者)だった曽我貴也社長はそう強調した。

 同社の中計には、26年度まで1.2兆円規模の投資計画が盛り込まれている。中でも注目が、物流分野での1400億円規模のM&Aという計画だ。M&Aは出物次第ではあるが、思い入れがにじむ数字といえる。

 一方、ライバルの商船三井の橋本剛社長は、3月の中計の説明会で、こう言って力を込めた。「非海運事業をさらに成長させる」。25年度までに1.2兆円の投資を計画する商船三井は、不動産やフェリー、クルーズといった非海運事業に2750億円の投資を振り向ける。

 日本の海運各社は総合海運業を長く志向してきた。海外勢が、効率化を図るためコンテナ船事業などを専業で手掛ける一方、日本勢は、コンテナ船や自動車船、鉄鉱石などを運搬するドライバルク船といった複数の事業を手掛けてきた。規模は違ってもビジネスモデルはほぼ同じだったのだ。

 しかし、17年に3社がコンテナ船事業を切り出して「日の丸コンテナ船」会社を設立し、コンテナ事業での3社の競争はなくなった。そして、空前のバブルを経て、今回の2社の中計が象徴するのは、各々が異なる航路に船出したという事実である。

 ではなぜ、日本郵船は物流、商船三井は不動産といった「非海運事業」を成長領域に挙げるのか。次ページでは、両社が非海運にかじを切った理由に加え、正反対ともいえる両社の成長戦略を解説する。また、両社の「脱・海運」戦略に存在する死角も明らかにする。