海運バブル終焉 手探りの船出#1Photo:Bloomberg/gettyimages

新型コロナウイルスの感染拡大による物流混乱で超異例の好業績を叩き出したのが、海運大手3社によるコンテナ合弁会社「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)」だ。海運バブルの終焉で、ONEには今後の成長戦略が問われる。だが、ONEには“内憂外患”ともいうべきリスクが存在する。特集『海運バブル終焉 手探りの船出』(全7回)の#1では、日の丸コンテナ船が抱えるリスクを明らかにする。(ダイヤモンド編集部 梅野 悠)

新型コロナが招いたコンテナバブル
ONE絶好調で海運3社は過去最高益

 「神風頼みはいけないと言ってきたが、やっぱり神風はいいものだなあと」。2月中旬、海運最大手の日本郵船が開いたメディア懇親会で、あいさつに立った同社の内藤忠顕会長(現取締役)はそう述べ、会場を沸かせた。

 業界に吹いた神風とは、世界的な海運バブルである。

 海運バブルの発端となったのは、2020年初頭からの新型コロナウイルスの感染拡大だ。当初、欧米や中国などではロックダウンなど厳しい制限が課され、世界全体でモノの動きが止まったが、すぐに米国などを中心に「巣ごもり需要」が盛り上がった。また、ゼロコロナ政策を掲げた中国で生産の回復が進み、輸送需要も急激に高まった。

 しかし、コロナ禍で港湾などでの働き手が減ったことに加え、米国などでは荷物を陸に上げた後の物流の担い手であるドライバーなどの賃金が高騰し、人手不足が深刻化。猛烈に輸送需要が高まる一方で、物流網の混乱による供給面の制約が生じたのである。

 輸送需給のひっ迫は、海運のコンテナ運賃の高騰を招いた。例えば、上海発ロサンゼルス着のコンテナ運賃を見ると、コロナ禍前は20フィートコンテナ1個当たり2000ドル前後だったが、21~22年には8000~9000ドル台に上昇した。

 そして、運賃高騰によるバブルの受け皿となったのが、日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社が2017年にコンテナ事業を切り出して設立したコンテナ船会社「Ocean Network Express(ONE)」である。シンガポールに本社を置くONEが空前の利益を叩き出した結果、株主である海運3社はバブルを享受できたのである。

 そもそも、ONEの発足直前である17年3月期に海運3社のコンテナ事業は数百億円規模の経常赤字を計上していた。新船の大量供給などを背景にコンテナ市況は需給が激しく緩み、コンテナビジネスは“お荷物状態”だった。

 世界的にもコンテナ不況は深刻で、韓国のコンテナ船大手も破綻した。こうした厳しい経営環境が、異例の再編劇を生むことになる。それが、3社の事業の統合による「日の丸コンテナ船会社」の発足だ。特に、規模で欧米などの競合に大きく劣る3社にとって、生き残りの選択肢はこれしか残されていなかったのだ。

 激しい逆風下で船出したONE。当初は統合による混乱もあり、赤字に沈んだこともあったが、3年も経たないうちに状況は一変する。コンテナ特需がONEを一気に飛躍させた。

 利益を見ると、ONEがまさに“稼ぎ頭”であることは明白だ。20年度のONEの税引き後利益は34億8400万ドルだったが、コロナ禍の最中の21年度には、前年度の4倍増の167億5600万ドルに達した。22年度も149億9700万ドルで着地。2期連続で2兆円規模の利益を叩き出したのだ。

 もちろん特需の恩恵が大きいのは確かだが、統合が寄与した面も大きい。ONEに関する著作『日の丸コンテナ会社 ONEはなぜ成功したのか?』(日経BP)がある日本海事新聞の幡野武彦編集局長は「当初、統合に冷ややかな目もあったが、3社の強い危機感を伴った当事者意識と明確な(統合の)青写真があったことで、統合効果が予想よりも早く出た」と指摘する。

 ONEには日本郵船、商船三井、川崎汽船がそれぞれ38%、31%、31%の割合で出資をしている。比率には統合前のコンテナ事業の各社の規模なども加味されているが、事実上の対等合併といえる。この合併の精神が、良い方向に働いたといえる。

 そして、上述の出資比率に応じ、ONEは株主である3社に莫大な利益をもたらした。例えば、日本郵船の22年3月期と23年3月期の連結最終利益は1兆円を突破。利益の7割近くがONEによる押し上げによるものだ。海運3社はONEのおかげで過去最高益に沸いた(下表参照)。

 では、お荷物からスタートして大逆転を果たしたONEは今後も成長を続けていけるのか。実は、ONEには死角が存在する。次ページではONEに忍びよる“内憂外患”ともいうべき2大リスクを解説する。