「他のメンバーへの貢献や協力は仕事の一環」と位置づける

書影『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(株式会社FeelWorks)『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(株式会社FeelWorks)
前川孝雄 著

 上司への研修では、「部下が同僚をライバルと考え、仲が悪い。お互いに協力し合うために上司は何をすべきか」との質問がよく出ます。私は、「組織の目的と、その目的達成のために各自がどのような役割を担い、いかに関係し合って仕事を進めるかを明示したチームの組織図を上司が作り、しっかり共有できれば、協力関係は生まれるはず」と答えます。

 部下が自分の仕事しか考えられない状況に陥るのを防ぐには、上司が部下の役割を設定し仕事を任せる際に、「協力し合うのも役割の一つ」と明確に伝えることです。その上で、定例ミーティングはもちろん普段の仕事でも、他のメンバーへの協力をしっかり認めることです。業績評価の項目に入れることもよいでしょう。他のメンバーやチームワークに寄与する行動を個々人の善意に委ねるのではなく、仕事の一環だと認識させるのです。

 また、「サンキューカード」など、お互いの協力に対し気軽に感謝を伝え合える仕掛けもよいでしょう。ちょっとしたサポートになる仕事を歓迎し褒め合う仕組みは、今後いっそう重要性が増すはずです。

 日本のメンバーシップ型雇用の中でチームがうまく回ってきたのは、互いの仕事の境界が明確でない中、ちょっとしたサポートを互いに「あうんの呼吸」で担い合ってきたからです。しかし、今後はリモートワークなども広がり、一人ひとりの役割を明確化するジョブ型へと舵を切り始める企業も増えていくでしょう。

 そこで、上司が部下に仕事を任せる際に、これまで光が当たらなかったちょっとしたサポートにも目を向けることが大切です。意義を強調するとともに業務として明確化し、率先して担った人に評価や感謝が届く仕組みをつくるのも、上司の仕事なのです。

【参考文献】
「フロー体験入門」(著者:ミハイ・チクセントミハイ/監訳者:大森弘/出版社:世界思想社/発売日:2010年5月20日)