ビジネスマン写真はイメージです Photo:PIXTA

上司が部下を指導する際に、「ハラスメントになるのでは?」と悩み、言動を抑制するケースが増えています。企業も管理職層にアンガーマネジメント研修を実施するなど、対策に懸命です。しかし、それらはハラスメント事案を抑える効果はあっても、部下と上司の良い関係を築くための根本的解決にはならないと筆者は考えます。なぜなら、そこには「事なかれ主義」があるからです。地雷を踏みたくないと思えば、上司は部下に関わることを避け、部下の気持ちや成長に無関心になりかねません。
※本記事は前川孝雄『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』から抜粋・再編集したものです。

「人の心を動かす」のが本物の上司力

まずは「信じて任せる」ことから始めてみる

 職責意識の高い上司ほど、(1)隘路(あいろ)に入り込み、周囲が見えなくなり、自分で全てを解決しようとする、(2)批判を否定的に受け止め、部下の異なる意見を聞き入れられなくなる、(3)威圧的になり、上司の権限をかざして一方的に命令・叱責する、(4)拙速に結論を出そうと、部下の状況や意見を顧みず決めつけて判断する、(5)マイクロ・マネジメントに走り、部下に事細かに指示し動かそうとする…などの行動を取りがちです。

 しかし、これでは部下の心は離れ、やる気を失い、マネジメントは空回りし始めます。すなわち、早い成果を出そうとの焦りが、かえって成果を遠のかせる上記(1)~(5)のジレンマ――クイック・ウィン・パラドックスの罠(リンダ・ヒル著「昇進者の心得」ダイヤモンド社 、2009年)に陥るのです。

 自分が優秀なプレイヤーだった上司ほど、この傾向になりがちです。仕事の当事者は部下本人であり、上司はその部下を支援するのが本来の仕事と心得ることです。自分のやり方を押し付けたり、指示や命令のみで動かそうとしたり、部下の一挙手一投足を管理するのではなく、いかに部下を信じ、任せるかが問われるのです。

 部下は、上司とは違う人間ですから、成果を出すまでのプロセスも、かける時間も違います。上司の想像以上に時間を要し、予想もしない行動もあるでしょう。そうした違いを許容し、部下一人ひとりの意見に耳を傾け、各自の持ち味を活かし、信じて任せることで、チームで成果を上げることにつながるのです。